ライゾマティクス、チームラボなど異才テクノロジー集団は単純にアート展示の場を広げようとしているわけでない。中核にいる建築分野の人材が主導し、建築や都市の在り方の拡張に果敢に挑んでいる。デジタルテクノロジーの進化が、そのビジョンに現実味を与え始めた。
絵画や彫刻と比較し、メディアアートが建築と融合するビジョンは2000年代には描きにくかった。またアート分野でも異質な存在だった。「機材劣化などの影響を受け、アート市場で求められる真正性や資産性を保ちにくい。画像処理領域などの科学研究費が支える特殊な領域だった」と、先端芸術分野のキュレーションに携わる一般社団法人クリエイティブクラスターの岡田智博代表は説明する。
そうしたなかで、アート分野に精通する建築家が実験的にメディアアーティストと協働する事例や、施設オーナーの理解を得てパブリックな場所を展示空間に利用する事例が現れ始めていた。後者で目を引くものとしては、廣瀬通孝・東京大学教授がプロジェクトリーダー、アーティストの鈴木康広氏がアートディレクターを務め、2009年に羽田空港の出発ホールで開催した「空気の港──テクノロジー×空気で感じる新しい世界」がある。
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照明デザインやデジタルサイネージと近接する領域でも挑戦が現れた。
特にLEDの発光パターンを制御するデジタルカラーライティングは、アーティストが照明器具を使って建築やパブリック空間に踏み込むきっかけをつくった。先駆者であるカラーキネティクス・ジャパン(東京都中央区)の広報、品川育代氏は、「アーティスト本人たちに『残るものをつくりたい』という思いがあるので、建築系の案件は歓迎されていると感じる。また、そうした案件の依頼元が大手の組織事務所やデベロッパーなどに拡大する傾向がある」と語る。
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エンジニアやプログラマー、数学者なども擁して創作活動を続けるチームラボ(東京都文京区)は、従来のアートとの間にある落差を覆す状況をつくった1社だ。
13年に「未来の遊園地」と称する知育用アトラクションを那覇市の百貨店で成功させた同社は、展示販売型のアートビジネスを脱し、入場料型の興行を前提とするソリューション販売に乗り出した。「名声が高まって国外の企業や美術館からのコミッションワーク(委託制作)も受託し、デジタル時代のパブリックアートを認知させるエポックメーキングな存在となった」(岡田氏)
猪子寿之代表が率いるチームラボには、初期から建築家の河田将吾氏が参画。現在は一級建築士事務所のチームラボアーキテクツを擁し、河田氏がその代表を務める。規模の大きな空間的な設営が必要となる作品では、欠かせない一員となっている。