現在の技術や常識では実現が不可能な一歩先の未来を見せる。アートにはそんな役割がある。テクノロジーアートの旗手たちが今、建築・都市分野と急接近し、デジタル技術の駆使によって新たな次元を切り開こうとしている。その担い手の紹介と併せ、2回に分けて最新動向を解説する。
「メディアアートにしかできない表現で一歩進んだビジョンを示し、そこに現実がついてくる状況をつくりたい」。デジタル技術を駆使して数々の広告・宣伝プロジェクトやメディアアート作品を手掛けてきたクリエーティブプロダクション、ライゾマティクス(東京都渋谷区)の齋藤精一代表取締役は、こう語る。
共同設立者の真鍋大度氏がリオ五輪の閉会式やテクノポップユニット「Perfume(パフューム)」のライブの技術演出に関わるなど、メディアアートの魅力を全国に知らせるきっかけをつくったのが同社だ。
創立10年目の2016年には、組織をリサーチ、デザイン、アーキテクチャーの3部門体制とし、建築的な考え方を持ち込むプロジェクトにも注力を始めた。東京理科大学とコロンビア大学で建築を学んだ齋藤代表が、これをけん引する。4月25日から開催中の六本木ヒルズ・森美術館15周年記念展「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」には映像とレーザーファイバーを用いたインスタレーション「パワー・オブ・スケール(Power of Scale)」を出展している。
「身近な場所」に常設作品
建築は元来、芸術と技術の統合を根幹の理念として持つ。近年、テクノロジーアートやメディアアートと建築分野が急接近し、両者の関係が深まっている。
ルーセントデザイン(東京都中央区)の松尾高弘代表は14年、三菱地所からの依頼で大阪市中央区の淀屋橋東京海上日動ビルディングのエントランス用にシャンデリアを制作した。LEDを制御して「雨のしずく」などを表現する照明兼パブリックアートで、現在も稼働する。
「インスタレーションが店舗など身近な場所に常設されるケースが急増した。特にプロジェクションマッピングの認知度が高まった影響が大きい。レーザー光源プロジェクターの台頭など映像装置の進化も関係する」と松尾代表は語る。
前編では以下に、テクノロジーアートの担い手であるライゾマティクス、ワウ、ルーセントの3社を紹介する。