2025年大阪万博の立案時からのキーマンである建築史家、橋爪紳也氏(大阪府立大学教授)に、誘致決定までの奮闘を振り返ってもらった。橋爪氏は大阪府特別顧問・大阪市特別顧問として、大阪への万博誘致案の企画立案に深く関わり、経済産業省の専門アドバイザーとしてコンセプトや会場構成案作成の中心になった。後編の今回は、会場構成の詳細と、今後の進め方に踏み込む。
(前編から読む)
──誘致活動ではやはりシンボル性があった方が第三者に伝わりやすそうに思えます。「中心がからっぽ」という考え方を前面に押し出すのは勇気がいりませんでしたか。
シンボル性が必要ない、と言っているわけではありません。からっぽの空間こそがシンボリックである、という意味です。その広場は「空(くう)」と名付けました。「空」は会場内に複数設けます。
「空」のイメージパースを見ると、丸い空が抜けていますよね。これは、1970年万博のシンボルゾーンの初期案がまさにそんな絵だったんです。その丸い穴のところに太陽の塔が立った。「空」という広場は、 「インビジブルモニュメント」と位置付けられ、また、人と機械が融合する「サイバネティック(人工頭脳学)・エンバイラメント」を模索した70年万博の「お祭り広場」のアイデアを、今日の視点から展開させたものです。
──なるほど!
「いのち」の多様性を重視する博覧会の主題を具象化するように、各パビリオンの敷地は多角形がランダムに会場内に離散するように計画しました。この配置は、自然界の中にも存在する「ヴォロノイ分割」によって、自動生成されます(関連記事:「大阪万博はラストチャンス」、2025年の招致会場計画アドバイザーが熱く語る新都市像)。ヴォロノイ分割というのは、一つひとつの重みづけをしたうえでそれぞれの中心を決めると、全体の形が自動的に決まるプログラムです。会場の絵を見て「細胞みたいだ」と言う人もいますね。
埋め立て地という夢洲(ゆめしま)の地形、さらには「埋め立て都市」とでも呼ぶべき大阪の歴史を会場計画に投影するために、会場内には水路を巡らせます。