ソニーが「音のVR(仮想現実)」の拡販に本腰を入れ始めた。音のVRとは、複数のスピーカー(マルチチャンネルスピーカー)を使って未知なる音響体験ができる技術だ。これまでの空間音響設計の在り方を変えるインパクトを持つ。
一言でいうと、ある空間内の決められた位置(定位)に「音を置く」。あたかもその場所に音源があるかのような演出を可能にする新しい空間音響技術を指す。ソニーはこれを「Sonic Surf VR(SSVR)」と呼ぶ。
四角い部屋なら、4つの壁の一面にSSVR対応のスピーカーを並べるだけで、部屋のあちこちに音源があるような環境(音場)をつくりだせる。スピーカーがない場所から音が聞こえてくるような不思議な感覚を味わえる。
物理的なスピーカーを四方の一面だけに設置すればよいとなれば、音を扱う空間設計は大きく変わってくる。「仮想スピーカーによる音の箱庭づくり」と、ソニーテクノロジーアライアンス部コンテンツ開発課の戸村朝子統括課長は表現する。
ソニーは2018年3月に米テキサス州オースティンで開かれた音楽と映像の祭典「SXSW(South by Southwest) 2018」でSSVRを使い、576個のスピーカーを設置して「音のトンネル」をつくった。トンネルに入るとあちこちから音が聞こえてきて、立体的な音響体験ができる。
同年6月にはSSVRの販売を開始。ただし、テーマパークや美術館、水族館、ショールーム、商業施設、ライブ会場といった法人や公共施設向けの音響設備なので、これまではごく限られた人しかSSVRを体験できなかった。一般には、SSVRの存在はほとんど知られていない。