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 放火事件として平成以降で最悪の惨事となった京都アニメーションの第1スタジオ(京都市伏見区)放火事件から2カ月。京都大学防災研究所の西野智研准教授による現場調査や煙流動解析から、火災のメカニズムが次第に見えてきた。出火後30秒で建物内に高温の煙が充満したとみられる。

被災した京都アニメーションの第1スタジオ(京都市伏見区)。放火犯は、1階の玄関付近でガソリンに着火したとみられる。火災により35人が死亡、34人が負傷した。2019年7月22日撮影(写真:日経アーキテクチュア)
被災した京都アニメーションの第1スタジオ(京都市伏見区)。放火犯は、1階の玄関付近でガソリンに着火したとみられる。火災により35人が死亡、34人が負傷した。2019年7月22日撮影(写真:日経アーキテクチュア)
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 京都府警察によると、火災による死傷者は69人。事件当時、建物内には70人の社員がいたが、無傷で逃げられたのは1人だけだった。なぜこれほどまでに被害が拡大したのか。煙の広がり方をシミュレーションするに当たり西野准教授はまず、建物の焼損状況の調査を実施した。

 被災した建物は、鉄筋コンクリート造・3階建てで、延べ面積約690m2の事務所。建物内部には、南側に1階から3階に続く吹き抜けのらせん階段と、西側に1階から屋上まで続く内階段を設置していた。放火犯は、らせん階段付近にガソリンをまいて火を付けたとみられる。

 西野准教授は、1階開口部の上にあるバルコニーは灰白色に、3階開口部の上にあるスパンドレルはピンク色に変色していることから、1階と3階の開口部からは長時間にわたって高温の火炎が噴出していたと分析する。コンクリートは受熱温度が高くなるにつれて、黒色、ピンク色、白色に変化するため、1階は激しく燃えて、部屋中の温度も想像以上に高かったとみられる。

被災した建物の東面。1 階開口部の上のバルコニーが灰白色に、3 階開口部上のスパンドレルがピンク色に変色しており、高温の炎にさらされていたことが分かる。西野准教授は、炎が噴出したが外側から延焼した可能性は低いとみている(写真:日経アーキテクチュア)
被災した建物の東面。1 階開口部の上のバルコニーが灰白色に、3 階開口部上のスパンドレルがピンク色に変色しており、高温の炎にさらされていたことが分かる。西野准教授は、炎が噴出したが外側から延焼した可能性は低いとみている(写真:日経アーキテクチュア)
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 建物の東面以外はピンク色や灰白色への変色はなく、窓ガラスやサッシが脱落せずに残っている。この焼損状況から西野准教授は、建物東面とは異なり煙を含んだ熱気流が開口部から噴出していたとみる。西面の外壁にある中央2列の開口部の周りにすすが付着していることから、内階段は煙で汚染されていたことが分かる。

被災した建物の南面。東面とは異なり、開口部からは火炎ではなく、煙を含んだ熱気流が噴出したとみられる(写真:日経アーキテクチュア)
被災した建物の南面。東面とは異なり、開口部からは火炎ではなく、煙を含んだ熱気流が噴出したとみられる(写真:日経アーキテクチュア)
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被災した建物の西面。内階段の踊り場に設置されていた開口の周辺にすすなどが付着していることから、内階段は煙で汚染されていたことが分かる(写真:日経アーキテクチュア)
被災した建物の西面。内階段の踊り場に設置されていた開口の周辺にすすなどが付着していることから、内階段は煙で汚染されていたことが分かる(写真:日経アーキテクチュア)
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