2019年9月9日未明、千葉市に上陸した台風15号は、千葉県を中心に膨大な数の建物被害をもたらした。
10月7日時点での住宅被害は4万304件に達する。被害が著しかったのは台風の進路の右側に当たる房総半島西部で、市町別では木更津市の一部損壊数と館山市の全壊数が最多となっている。
同県内で観測された風速は千葉市中央区が最も大きく、最大風速は35.9m/秒、最大瞬間風速は57.5m/秒に達した。18年9月に近畿地方に上陸した台風21号の最大瞬間風速よりはわずかに小さいものの、複数の観測地点で歴代1位を記録した。
観測された最大風速は全て建築基準法が定める基準風速内(千葉市は36m/秒、館山・鴨川・木更津各市は38m/秒)で、最大瞬間風速も建基法の基準風速による換算値に収まるか、ほぼ同等だった。
ひねり金物では小屋組み飛散
千葉県内の被災地でしばしば目にしたのは、屋根が小屋組みごと吹き飛ぶ被害だ。台風15号の被害認定を弾力的に運用するように内閣府が通達した調査方法では、全壊もしくは大規模半壊に相当する壊れ方だ。
館山市西川名地区の木造2階建て住宅は、海岸に面する側の窓ガラスが割れ、切り妻屋根の母屋と垂木が飛散した。小屋組みには接合金物を確認できなかった。
建物の風上側に穴が開くと、屋根を外側に押す正圧と屋根を外側に引っ張る負圧が共に増し、接合強度の弱い小屋組みは飛散しやすくなる。
金物で接合していた小屋組みが飛んだ例もある。鋸南町では軒先部だけにひねり金物を使用していた木造2階建て住宅と、接合金物で緊結した垂木と緊結していない垂木が混在する2階建て賃貸住宅それぞれの被害を確認した。
小屋組みの接合方法に関する仕様規定は建基法にはない。住宅金融支援機構が木造住宅工事仕様書で、軒先部の垂木と桁をひねり金物で留める方法などを示しているだけだ。
木構造に詳しい建築研究所の槌本敬大上席研究員は、「くぎ留めするひねり金物は引き抜きには効くが、せん断力には抵抗できない。垂木の断面寸法が小さいとくぎが縁切れするリスクもある。ガラスなどの割れで風圧力が増す場合に備えて、断面の大きい垂木の全箇所を、せん断に効くくら金物などで留めることを勧める」と話す。