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 植物が光合成をするように、建物が光エネルギーを吸収して発電しながら酸素を生み出す。しかも原料は廃棄物の有効活用――。摂南大学理工学部の住環境デザイン学科の川上比奈子教授と生命科学科の松尾康光教授が開発した植物由来の光合成燃料電池を外装材に組み込む「光合成建築」が国内外で注目されている。摂南大学は2020年2月25日に、メディア向け説明会を開いた。

光合成燃料電池を組み込んだスクリーン。10本の支柱に光合成燃料電池パネルを44枚取り付けている。デザインは川上教授が担当した(写真:日経アーキテクチュア)
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光合成燃料電池を組み込んだスクリーン。10本の支柱に光合成燃料電池パネルを44枚取り付けている。デザインは川上教授が担当した(写真:日経アーキテクチュア)

 植物は光エネルギーを利用して、細胞の中の葉緑体で水を分解して酸素を発生させ、二酸化炭素をでんぷんなどに変える光合成を行っている。葉緑体にはたんぱく質の複合体がいくつもあり、それぞれが水や二酸化炭素からでんぷんなどを生み出すまでの工程を分担している。

光合成の過程の一部を示した図。光合成燃料電池では光化学系Ⅱ複合体(PSⅡ)を分断・抽出(資料:摂南大学の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
光合成の過程の一部を示した図。光合成燃料電池では光化学系Ⅱ複合体(PSⅡ)を分断・抽出(資料:摂南大学の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 松尾教授が着目したのは、その中の1つである光化学系Ⅱ複合体(PSⅡ)だ。PSⅡは光エネルギーを利用して水を酸素と水素イオンに分解する。松尾教授は、PSⅡを抽出して効率よく水素を回収し、電気エネルギーに変換する「光合成燃料電池」を開発した。

光合成燃料電池パネルの表(左)と裏(右)。裏側の電極に測定機器をつないで、電力や電圧、安定して発電する時間などを測定している(写真:左は摂南大学、右は日経アーキテクチュア)
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光合成燃料電池パネルの表(左)と裏(右)。裏側の電極に測定機器をつないで、電力や電圧、安定して発電する時間などを測定している(写真:左は摂南大学、右は日経アーキテクチュア)
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光合成燃料電池パネルの表(左)と裏(右)。裏側の電極に測定機器をつないで、電力や電圧、安定して発電する時間などを測定している(写真:左は摂南大学、右は日経アーキテクチュア)
光合成燃料電池のメカニズム。水を分解して発生する水素イオンを燃料として発電する(資料:摂南大学の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
光合成燃料電池のメカニズム。水を分解して発生する水素イオンを燃料として発電する(資料:摂南大学の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 光合成燃料電池パネルは、透明なアクリル板2枚と電極で構成している。アクリル板2枚の間にPSⅡを含む溶液を入れ、発生する酸素を排出する穴を設ける。溶液に接するようにアクリル板に取り付けた電極に、電解質ともう1つの電極を取り付け、溶液中で発生した水素イオンを吸収して発電する仕組みだ。

 パネルの上部と下部にはそれぞれPSⅡ溶液を注入するパイプと排出するパイプを取り付けた。PSⅡ溶液が水を酸素と水素イオンに分解できるのは約40日間で、定期的に入れ替える必要があるためだ。色は2~3週間経過すると緑色から枯れ葉のような黄色に変化するという。

 PSⅡ溶液と電解質は、廃棄物を回収して再利用してつくる。PSⅡ溶液は伐採樹木や廃棄野菜の葉を原料とし、電解質は魚のうろこなど廃棄食材を有効活用する。松尾教授は「一般的な燃料電池の電解質には1m角で60万円もする高価なものが使われている。安価な代替品として生物由来の電解質を使った燃料電池を研究してきた」と説明する。また、水素イオンを回収するために用いる触媒についても既存の燃料電池と異なる。通常の燃料電池では高価な白金などの触媒を使うことが多いが、光合成燃料電池は触媒がなくても発電できる量の水素イオンが発生する。

 光合成燃料電池は蛍光灯の明かりでも発電する。光合成燃料電池パネル16m2で20W発電できる計算だ。このパネルの場合、約15分で発生する酸素は1リットルで、これは高さ5mのケヤキの木1本分が光合成でつくる酸素量に相当するという。これまでの研究では30ミリリットルのPS II溶液でデジタル時計やLEDランプを1カ月以上点灯させることができた。太陽光電池ほどの発電量は確保できないが、スマホなどを充電することもできるため、災害対策にも活用できそうだ。