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 安倍晋三首相が4月7日、日本で初となる緊急事態宣言を発令したことを受け、東京都などの各自治体は一斉に緊急事態措置の実施に踏み切る。住民への徹底した外出自粛に加え、事業者には施設使用の制限を要請する。一方で建設現場に関しては根拠法に条文がなく、工事の一律停止は要請できない。ただし、民間発注者のなかには宣言を重くみて、今後の方針について受注者と協議する意向を示す事業者もいる。宣言を受けた受発注者の初動をリポートする。

 「もちろん、工事現場での感染は心配だ。でも、お客がいることだから。我々がいくら工事を止めたいと言っても、お客が認めてくれないことには……」。緊急事態宣言発令の半日前、ある準大手建設会社の幹部は「社内で対応を検討中」としながら、宣言の後も工事を続ける考えを明かした。

緊急事態宣言後の安倍首相の記者会見を伝える、東京・新宿の大型ビジョン(写真:共同通信)
緊急事態宣言後の安倍首相の記者会見を伝える、東京・新宿の大型ビジョン(写真:共同通信)
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 日経クロステックが緊急事態宣言発令当日の4月7日、大手と準大手の建設会社10社に今後の対応を尋ねたところ、同様の声が多く聞かれた。大半の企業は、「我々だけで勝手に工事の中断を判断するわけにはいかない。工事の進め方は発注者と個別に協議していく」(大手建設会社)と慎重な姿勢を示す。しかし内心では、「コロナだからといって、工事はなかなか止められない」(別の大手建設会社)と考える企業が多い。

 東京都が4月6日に出した「対応案」で示したのは、各種学校やスポーツクラブ、百貨店などの「施設に対する休業の要請」のみ。これは、根拠法となる新型インフルエンザ等対策特別措置法が「施設に対する使用制限」の要請を認めているためだ。

 一方で、建設現場は同法の範疇に含まれず、都道府県知事の権限で民間発注分を含めた建設工事を一律停止することはできない。そのため、判断は各発注者に委ねられているとも言える。

 不動産事業に関連する企業によって構成される不動産協会は「建設現場は個別性が強いため、対応について協会が方針を示すかどうか慎重を期している。各会員企業の意見を聞きながら、方針を示すかどうか判断する」としている。一律のルールがない中で、各社は判断を迫られている。

 大手不動産会社の多くは、4月6日時点で「緊急事態宣言を受けた対応はまだ決まっていない」(三井不動産)など、方針を決めかねている。野村不動産は「施工者と対応を協議している。緊急事態宣言の発令を受けた自治体の措置をみて判断する」としている。対応を決定していない民間発注者が多い状況で、4月8日時点では大半の民間工事が継続しそうだ。

 実際、大手・準大手10社の間では、「コロナショック」が顕在化し始めた年初以降、自社で施工中の民間建築工事を新型コロナウイルスを理由に中断を要請したケースは「皆無に近い」(大手建設会社)。一時、“震源地”の中国から鉄筋や石、衛生設備機器など建築資材の調達に支障が出た時期もあった。しかし、そのときでさえ工事の中断はほとんど起こらなかったという。現在、資材調達難はほぼ解消されており、民間企業にとって、「工事を止める選択肢はないに等しい」(大手デベロッパーの担当者)というのが実情だ。