新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて、政府が発令した緊急事態宣言。神奈川県では、休業要請の対象となったインターネットカフェの滞在者向けに、県立武道館(横浜市港北区)を2020年4月11日から開放している。武道館で活躍しているのが、建築家の坂茂氏が考案した紙管の間仕切りシステムだ。要望に応じて最大90室程度まで用意可能で、県は受け入れの期限は設けず、当面の間続けるという。4月16日時点で39人が利用している。
「紙管は思っていたよりも軽く、組み立てやすい。災害時の避難所はもっと高密度で組むかもしれないが、今回のようなネットカフェの休業に伴う受け入れでは利用者数がそれほど多くなく、ゆとりある配置で組み立てた。カーテンで仕切るとプライバシーを確保できるうえ、飛沫感染予防にもなるので、利用者も安心して過ごしている」と、県くらし安全防災局企画調整担当課長の青木淳氏は話す。
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないなか、建築設計者には何ができるのか。坂氏に話を聞いた。以下、インタビューの内容をお伝えする。
神奈川県立武道館に紙管の間仕切りシステムを導入した経緯を教えてください。
もともと19年12月に、神奈川県とVAN(坂氏が代表を務めるNPO法人ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)で「災害時における避難所用間仕切りシステム等の供給に関する協定」を結んでいました。
4月7日に政府が緊急事態宣言を出し、その翌日には私から県に間仕切りシステムの設置を申し出ました。居場所を失う人が出ることに県も危機感があり、「すぐに導入しましょう」と話がまとまりました。設営には私も加わり、4月14日時点で34ユニットを組み立てました。非常時の協定を結んでいたからこそ、迅速に対応できたのだと思います。
間仕切りシステムは、これまで東日本大震災や熊本地震の避難所でも導入した実績があります。今回、感染症対策を踏まえて変更した部分はありますか?
ウイルスの感染が懸念されるときに、避難所をどのように運営すべきかを考え、まずは旧知のウイルス学者、満屋裕明氏に意見を求めました。満屋氏は、国立国際医療研究センター研究所長や、米国立がん研究所レトロウイルス感染症部長を務める方。世界で初めてエイズの治療薬を見いだし、数々の賞を受けた信頼できる人物です。
満屋氏は感染症の専門家として以下の5点を助言してくれました。
- まず避難所の入所時に検温し、有熱者を分けるべきだ。ただし、現状(3月13日時点)は有熱者でも陰性であることが多い。
- 有熱者には個別の間仕切りを与えるほうがよい。ただし、精神的孤立をさせないように注意を払う。
- 避難所に家族(個人)ごとに間仕切りを設けることは、プライバシーの確保だけでなく、ウイルスの飛沫感染対策に極めて有効な手段。
- 間仕切りのカーテンとカーテンの間の密閉性を高めると、より有効である。
- 間仕切りの上部が開いていることは問題ない。