全4527文字
PR

 新型コロナウイルスの感染拡大に起因して、建築士事務所の業務を巡る様々な法律問題が発生している。その1つが、建築士の重要事項説明を巡る問題だ。建築・住宅分野を専門とする匠総合法律事務所の秋野卓生弁護士が、日経クロステックに緊急寄稿。秋野弁護士は、「建築主との密接な接触を避ける方法として、建築士法24条の7を改正し、IT重説を導入すべきではないか」と主張する。(日経クロステック/日経アーキテクチュア)

秋野卓生氏。 匠総合法律事務所代表社員弁護士。1973年千葉県生まれ。96年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。2001年4月に秋野法律事務所を開設。03年に現事務所名へ改名。18年度から慶応義塾大学法学部教員(法学演習/民法) (写真:匠総合法律事務所)
秋野卓生氏。 匠総合法律事務所代表社員弁護士。1973年千葉県生まれ。96年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。2001年4月に秋野法律事務所を開設。03年に現事務所名へ改名。18年度から慶応義塾大学法学部教員(法学演習/民法) (写真:匠総合法律事務所)

 「営業所や住宅展示場といった営業拠点は活動の停止や縮小が進み、お客様のご自宅への訪問もお断りされる場面が出てきました」「設計打ち合わせをインターネット環境で行う打ち合わせ(IT打ち合わせ)を希望するお客様が増えています」という事例が多く発生しています。

 新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、対面営業が当たり前であった設計打ち合わせが大きく変貌したのです。

 営業設計の結果、契約締結に至る際、「以降の設計業務は有償となります」として、建築士法24条の7規定に基づく重要事項説明(以下、士法重説)を実施することとなります。この士法重説について、「非対面で実施したい」「テレビ会議を使用して実施したい」というニーズがエンドユーザーから出てきているのです。

「士法重説」は対面を想定

 2008年11月28日に建築士法が改正され、建築士事務所の開設者は建築主に対して設計・工事監理契約の締結前に、その事務所の管理建築士または所属する建築士が重要事項について説明させ、書面も交付することが義務付けられました。説明する建築士は建築士免許証を提示することも義務付けられています。

重要事項説明書
重要事項説明書

 重要事項説明の対象となる項目は、設計または工事監理の受託契約の内容とその履行に関する事項であり、担当建築士の氏名、建築士免許の登録番号や種類などの説明が義務付けられています(建築士法24条の7)。

 建築設計関連団体四会(日本建築士事務所協会連合会、日本建築士会連合会、日本建築家協会、日本建設業連合会)では四会推奨標準様式において「説明をする建築士」と「説明を受けた建築主」の押印が加えられています。

 建築士法では建築士ならびに建築主の押印の義務はありませんが、署名と押印することで、重要事項説明を行った記録としています。四会推奨標準様式では、重要事項説明を行った記録として重要事項説明書を2部作成し、建築主と建築士事務所が各1部保有することを推奨しています。

不動産賃貸取引では「IT重説」が認められている

 士法重説は対面が原則です。一方で、不動産業界ではテレビ電話で説明できる「IT重説」の取り組みが進んでいます。

 不動産取引におけるIT重説実施のための検討は、政府のIT戦略を示す「世界最先端IT国家創造宣言」に遡ります。政府が同宣言を閣議決定したのは13年6月14日。これを受け、政府のIT総合戦略本部は、13年12月に「IT利活用の裾野拡大のための規制制度改革集中アクションプラン」を決定しました。

 この中で、不動産取引における重要事項説明に際しての対面原則の見直しが検証対象となり、宅地建物取引業法35条に基づき宅地建物取引主任者(現、宅地建物取引士)が対面で行うとされている重要事項説明を、インターネットなどを利用した対面以外の方法によることについて、具体的な手法や課題への対応策に関する検討を行うことが対処方針として示されました。

 これを踏まえ、国土交通省は14年4月に有識者や実務者からなる「ITを活用した重要事項説明等のあり方に係る検討会」を設置。対面以外の方法による重要事項説明などの在り方について検討を行い、15年1月に最終取りまとめを示しました。最終取りまとめを受けて、15年8月末から17年1月にかけてIT重説に関する社会実験が行われました。

  IT重説に関する社会実験の検証結果などを検証するために、国交省は「ITを活用した重要事項説明に係る社会実験に関する検証検討会」を16年3月に設置。検証検討会は17年3月に取りまとめを公表するまでに計3回開催し、IT重説について様々な視点から検証がなされました。

 社会実験の結果、賃貸取引については1000件以上のIT重説が実施され、かつ、 目立ったトラブルが発生していないことなどから、一定の条件の下であれば、ITを活用して重要事項説明をしても支障がないと認められました。このため、17年度中に本格運用に移行することが適当とされました。

 賃貸取引におけるIT重説は、上記の通り、検討会の設置から3年もの時間をかけて実行されるに至っているのです。果たして、士法重説のIT化を急に実現することができるか、という点が課題になってきます。

社会実験で検討したのでは間に合わない

 官民データ活用推進基本法および「デジタル・ガバメント推進方針」に基づき、20年3月30日に国土交通省から提出されたデジタル・ガバメント中長期計画改定において、以下の記述がなされています。

(4)民間手続のデジタル化の推進
・法令上オンライン化が認められていない民-民手続については、内閣官房が取りまとめる阻害要因の類型に応じて、法令等の見直しについて検討を行う。その際、民間ニーズの高いものを優先して、検討を行う。

ア.不動産取引におけるオンライン化の推進
不動産取引の安全性確保を大前提としながら、既に本格運用されている賃貸取引におけるITを活用した重要事項説明(IT重説)に加え、売買におけるIT重説の導入や賃貸における重要事項説明書等の書面の電子化について、社会実験等を通じて検討を行う。

 上記においても、「社会実験等を通じて検討」を行うと記載されており、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、今、すぐにでも取り組みたいのに時間がかかることが予測されます。

 国は新型インフルエンザ等対策特別措置法改正法(以下、特措法)に基づく緊急事態宣言で、対面をできる限り避けることを求めながら、士法重説は対面で実施しないと違法という矛盾を抱えてしまっているのです。