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 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、大企業がこぞって在宅勤務に移行したことで、東京を代表するオフィス街の大手町や丸の内からは文字通り人が消えた。NTTドコモの分析によると、ゴールデンウイーク直前の2020年4月28日午後3時時点の大手町の人出は、感染拡大前と比べて70.9%減だった。

緊急事態宣言の発令で人出が減った東京・丸の内仲通り。2020年4月30日に撮影(写真:日経アーキテクチュア)
緊急事態宣言の発令で人出が減った東京・丸の内仲通り。2020年4月30日に撮影(写真:日経アーキテクチュア)
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 わざわざ会社に行かなくても、意外に仕事は回る――。このように実感した企業経営者やビジネスパーソンは少なくないだろう。コロナ禍をきっかけにテレワークや在宅勤務を本格的に取り入れ、オフィス面積の削減に動く企業が出てくるのは自然なことだ。実際、テレワークと親和性の高いIT企業やスタートアップ企業が解約に動くケースが目立ってきた。

 経営コンサルティング会社のA.T.カーニーで不動産業界などを担当する向山勇一プリンシパルも、「都心のAクラスビルなどはさておき、よりグレードの低いオフィスビルでは解約の動きが徐々に顕在化している」とする。「投資余力が少ない中堅以下の企業などでは、今後もオフィスを解約して固定費を下げる方向に向かうのでは」(向山プリンシパル)

 足元の賃貸オフィス市況は、比較的堅調に推移している。オフィスビル仲介大手の三鬼商事が20年5月7日に発表した東京の都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)の4月時点の平均空室率は前月比0.06ポイント増の1.56%にとどまった。ただし同社は、「新型コロナによるオフィスビル市況への影響は4月時点では顕在化していないが、成約に向けてテナントの動きは全国的に停滞の様子が見られるため、今後の市況の動向が注視される」などとする。

 賃貸オフィス市況は景気に一歩遅れて変動する傾向がある。建築のコストマネジメントを専門とするサトウファシリティーズコンサルタンツの佐藤隆良社長は、「08年のリーマン・ショックでは市況が急激に冷え込み、都心では1年で9万坪近い空室が発生した。これを受けて、事務所の着工床面積も大きく落ち込んだ」とし、いずれ新築の需要にもマイナスの影響が出てくると分析する。

 国土交通省の建築着工統計によると、19年の事務所の着工床面積は前年比3.5%減の530万m2で、2年連続の減少だった。佐藤社長は「近年の旺盛な建築需要をけん引してきた事務所についても減速が始まり、20年の着工床面積は前年比4%減の510万m2、21年は470万m2(同8%減)、22年は420万m2(同10%減)と3年間ほど減少傾向が続くのでは」と予測する。