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 約2カ月に及んだ緊急事態宣言。水面下では建築紛争の停滞という事態が起こっていた。最高裁判所の業務継続計画に基づき、建築裁判も一律に裁判期日が取り消されてしまったのだ。現在も期日再設定の混乱が続いており、建築紛争に詳しい秋野卓生弁護士は、“アフターコロナ”における建築紛争の解決方針について発想の転換を呼びかけている。(日経クロステック/日経アーキテクチュア)

秋野卓生氏。 匠総合法律事務所代表社員弁護士。1973年千葉県生まれ。96年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。2001年4月に秋野法律事務所を開設。03年に現事務所名へ改名。18年度から慶応義塾大学法学部教員(法学演習/民法) (写真:匠総合法律事務所)
秋野卓生氏。 匠総合法律事務所代表社員弁護士。1973年千葉県生まれ。96年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。2001年4月に秋野法律事務所を開設。03年に現事務所名へ改名。18年度から慶応義塾大学法学部教員(法学演習/民法) (写真:匠総合法律事務所)
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 改正新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、改正特措法)に基づく政府の緊急事態宣言は、建築訴訟の現場にも重大な影響を与えました。政府の緊急事態宣言に伴い、予定されていた裁判期日が相次ぎ取り消しとなってしまったのです。そして現在、裁判所では、改めて次回期日の調整が再開されるという前代未聞の事態となっています。司法インフラの停止状態が生じてしまっているのです。

 同法に基づく裁判所の対応方針については、最高裁判所が2016年6月1日に公表した「新型インフルエンザ等対応業務継続計画」に記載されており、この事態はこの計画に基づく措置と考えられます。

 計画では民事訴訟や刑事公判、家事審判・調停などは優先順位を付け、低いものから縮小または中断するとしています。建築訴訟・建築調停は、優先度が低いものの中に入っているのだと思います。特に緊急性の高い保全に関する事務、ドメスティックバイオレンス(DV)事件、人身保護に関する事務、令状・医療観察事件に関する事務などを優先的に処理するため、こうした順序を設けているのです。

 もともと建築訴訟は審理期間が平均2年超という非常に長丁場の裁判であり、ただでさえ審理スピードが遅いのに、この期日取り消しによりさらに審理期間が長期化するのは疑いのないところです。

 私たち弁護士は紛争解決の最後の砦(とりで)として、裁判所における裁判手続きにて1日も早い紛争解決を目指して訴訟活動をしています。一方、新型コロナウイルスについては、第1波の感染は現在収まりつつありますが、専門家は秋以降、第2波がやってくると予測しています。第3波襲来を予測する専門家もいるようです。改正特措法に基づく緊急事態宣言がまた発出されると、建築裁判期日は取り消され、緊急事態宣言が解除されるまで、裁判が行われないリスクがあるのです。このリスクを考えると、新しく発生する紛争については、いかに裁判手続きによらないで解決していくか、という視点が極めて重要であると考えます。

 裁判になってしまう事案は、初期対応に失敗し、紛争の根が深くなってしまい、やむを得ず裁判所の審理に委ねざるを得なくなるものが大半です。紛争を深刻化させる前に解決するためには、トラブルが発生した際に「不要不急」と後回しをせずに、トラブルの早期解決は優先順位の高い課題であると認識していただく必要があります。