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 青森県弘前市に建つ「弘前れんが倉庫美術館」が2020年6月1日、プレオープンした。約100年前に建てられた近代産業遺産のレンガ倉庫を、美術館として活用する事業だ。建築設計は、フランス・パリを拠点とするAtelier Tsuyoshi Tane Architects(アトリエ・ツヨシ・タネ・アーキテクツ)の田根剛代表が手掛けた。金色に輝く屋根は「シードル・ゴールド」と呼ばれ、地域の人にも好評だ。新型コロナウイルスの感染拡大防止に配慮し、まずは弘前市民、6月17日から青森県民を対象として事前予約制での開館となった。

青森県弘前市に完成した「弘前れんが倉庫美術館」。右が「ミュージアム棟」、左が「カフェ・ショップ棟」。菱ぶきの屋根にはチタンを使用している(写真:吉田 誠)
青森県弘前市に完成した「弘前れんが倉庫美術館」。右が「ミュージアム棟」、左が「カフェ・ショップ棟」。菱ぶきの屋根にはチタンを使用している(写真:吉田 誠)
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 美術館は、JR弘前駅から徒歩20分、土淵川のほとりにある吉野町緑地に建つ。地上2階建ての「ミュージアム棟」と「カフェ・ショップ棟」で構成した。その間にイベントなども開催できる「ミュージアム・ロード」を通し、周辺街区の回遊性を高める配置計画だ。緑地は「美術館の活動と連携して利用できるように再整備した」と、弘前市都市計画課美術館周辺活性化室長の中田和人氏は話す。

配置図(資料:Atelier Tsuyoshi Tane Architects)
配置図(資料:Atelier Tsuyoshi Tane Architects)
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 修復のコンセプトは、「記憶の継承」と「風景の再生」。既存建物は、もともと明治・大正期に酒蔵として建てられ、戦後は日本初のシードル工場として1965年まで稼働していたものだった。レンガなど可能な限り既存部分を残し、活用しつつ、ミュージアム棟では耐震補強も行った。補強のために組積造のレンガ壁の中に穴を開け、PC鋼棒を用いて上下を緊結させている。

ミュージアム棟のエントランスを入ると、奈良美智氏の作品「A to Z Memorial Dog」が迎えてくれる(写真:吉田 誠)
ミュージアム棟のエントランスを入ると、奈良美智氏の作品「A to Z Memorial Dog」が迎えてくれる(写真:吉田 誠)
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 田根代表は、「新築でも改築でもない。この場所に記憶されたものから学んだことを、未来へと継承する『延築』だ」と説明する。建物に対する新たな提案もある。ミュージアム棟のエントランスに施したレンガのアーチは、修復ではなく新しく積まれたものだ。45度角度をつけた積み方を、既存のイギリス積みに対して、「弘前式レンガ積み工法」と田根代表は名付けている。

 ミュージアム棟を構成するのは5つの展示室と、市民ギャラリーや貸しスタジオ、ライブラリーなど市民の芸術活動を支援する施設だ。展示室は、既存の躯体(くたい)を生かした鉄骨や木造のトラス屋根が、建物の歴史を物語る。特に印象的なのは、美術館としては極めて珍しい「ブラック・キューブ」の展示室で、既存の壁に塗られていたコールタールを、安全性を検証した上で生かした。

一部の展示室では、既存壁のコールタールの風合いをそのまま生かした。奥の壁に写るのは、ナウィン・ラワンチャイクン氏の作品「いのっちへの手紙」(写真:吉田 誠)
一部の展示室では、既存壁のコールタールの風合いをそのまま生かした。奥の壁に写るのは、ナウィン・ラワンチャイクン氏の作品「いのっちへの手紙」(写真:吉田 誠)
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上が2階平面図、下が1階平面図(資料:Atelier Tsuyoshi Tane Architects)
上が2階平面図、下が1階平面図(資料:Atelier Tsuyoshi Tane Architects)
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