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 世界遺産の一部である富岡製糸場(群馬県富岡市)で、国宝「西置繭所(にしおきまゆしょ)」の保存修理工事が完了、2020年10月3日にグランドオープンした。この建物は明治政府が招へいした外国人技術者が設計を手掛け、1872年に完成した。幅12.3m、長さ104.4mの「木骨レンガ造」だ。工事では1階に鉄骨と強化ガラスによる「ハウス・イン・ハウス(入れ子構造)」を導入して、ギャラリーや多目的ホール、ホワイエなどを新たに整備した。

富岡製糸場にある国宝「西置繭所」に新設した多目的ホール。建物東側に連続しているガラス窓も復元し、光が差し込む明るい空間となっている。写真は、オープン前の9月29日に撮影した(写真:池谷 和浩)
富岡製糸場にある国宝「西置繭所」に新設した多目的ホール。建物東側に連続しているガラス窓も復元し、光が差し込む明るい空間となっている。写真は、オープン前の9月29日に撮影した(写真:池谷 和浩)
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西置繭所の東側外観。9月29日に撮影。操業が最盛期にあった1970年代の外観に復旧させた。屋根はいったん瓦を下ろしてふき直した。施設見学者が目にする東面の屋根には当初から使われた瓦を用いた。レンガは当初からのものだが、アラミドロッドを埋め込んだ箇所が白い帯となって見える(写真:日経アーキテクチュア)
西置繭所の東側外観。9月29日に撮影。操業が最盛期にあった1970年代の外観に復旧させた。屋根はいったん瓦を下ろしてふき直した。施設見学者が目にする東面の屋根には当初から使われた瓦を用いた。レンガは当初からのものだが、アラミドロッドを埋め込んだ箇所が白い帯となって見える(写真:日経アーキテクチュア)
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 西置繭所は富岡製糸場の一角を成す「貯繭(ちょけん)施設」だった建物だ。カイコの生産・育成には季節性があり、1年に1度しか収穫できなかった。一方、蒸気機関を用いた繰糸場(そうししょ)は通年操業が前提となり、大量の繭を保存する必要から東西2棟の貯繭施設が整備された。今回、工事が完了したのは、このうち西側の棟だ。なお2014年に世界遺産登録された「富岡製糸場と絹産業遺産群」では、同年に西置繭所、東置繭所、繰糸場の3棟が国宝となった。

富岡製糸場の正面入り口、門前から撮影。奥に立つのが、東置繭所(写真:池谷 和浩)
富岡製糸場の正面入り口、門前から撮影。奥に立つのが、東置繭所(写真:池谷 和浩)
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 富岡市は「施設活用には防災改修が必須」とする整備活用計画を12年に作成し、15年から西置繭所の遺跡調査・保存工事に着手した。西置繭所の保存工事は外観を生産最盛期の1974年ごろの状態に戻し、内部を展示空間とするもので、30年間に及ぶ整備計画の工事第1弾だ。工事で新設した多目的ホールは、イベントやブライダルなど様々な用途に使われることを想定している。

1階に新設したインフォメーション。通し柱に圧着した鋼製部材は、柱との隙間を無収縮モルタルで充てんしている。天井のガラス面も構造の一部だ(写真:池谷 和浩)
1階に新設したインフォメーション。通し柱に圧着した鋼製部材は、柱との隙間を無収縮モルタルで充てんしている。天井のガラス面も構造の一部だ(写真:池谷 和浩)
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1階、入ってすぐの場所にかつて使われていたリフトがある。そのまま展示している(写真:日経アーキテクチュア)
1階、入ってすぐの場所にかつて使われていたリフトがある。そのまま展示している(写真:日経アーキテクチュア)
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 工事の事業主体は施設所有者の富岡市で整備予算は約35億円。予算の50%を文化庁が、25%を群馬県がそれぞれ補助した。改修の設計者は文化財建造物保存技術協会(東京・荒川)、施工者は竹中工務店・タルヤ建設事業共同体だ。改修計画には構造家の江尻憲泰氏(江尻建築構造設計事務所主宰)が参画した。