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 「人とロボットが共に暮らす未来のプラットフォームを実現する」。大阪商工会議所は2020年12月11日、スマートシティー開発やスマートビル開発の進展に不可欠となる諸技術を様々な企業・団体が共同で実験する「コモングラウンド・リビングラボ」のセミオープンを発表。大阪市北区の中西金属工業本社内に設けた実験場を報道陣に公開した。

 同ラボは、大阪商工会議所などが運営主体を組織し、国家戦略「Society 5.0」に貢献する「次世代都市のための汎用的なプラットフォーム」づくりに向けて運用していく。フィジカル空間(現実空間)とデジタル空間(仮想空間)を高度に融合させたSociety 5.0の実現を目標に掲げる2025年大阪・関西万博を、当面の活動のターゲットとする。

コモングラウンド・リビングラボがセミオープンした。左は、開設場所である中西金属工業の中西竜雄代表取締役社長。右は、同ラボのディレクターを担う建築家の豊田啓介氏。中西金属工業は2018年に木造の工場を改修し、イノベーション創造のための共用オフィスを開設した。今回、同じ建物の一角に、新たなラボの機能であるシェアオフィスと共有実験場を設けている(写真:日経クロステック)
コモングラウンド・リビングラボがセミオープンした。左は、開設場所である中西金属工業の中西竜雄代表取締役社長。右は、同ラボのディレクターを担う建築家の豊田啓介氏。中西金属工業は2018年に木造の工場を改修し、イノベーション創造のための共用オフィスを開設した。今回、同じ建物の一角に、新たなラボの機能であるシェアオフィスと共有実験場を設けている(写真:日経クロステック)
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中西金属工業の中西社長。ベアリング製造の他、輸送機事業、特機事業などを展開する同社はラボの場所を提供し、運営委員会に参画する。ものづくり企業としてのイノベーションを模索し、「川上や外側に向けた活動なども重視していたところに、コロナ禍という大きな環境変化が重なった。自社にとってのチャンスになると考えて手を上げた。Society 5.0を身近に感じる社会が5年後には来るとみて関わっている」(中西社長)(写真:日経クロステック)
中西金属工業の中西社長。ベアリング製造の他、輸送機事業、特機事業などを展開する同社はラボの場所を提供し、運営委員会に参画する。ものづくり企業としてのイノベーションを模索し、「川上や外側に向けた活動なども重視していたところに、コロナ禍という大きな環境変化が重なった。自社にとってのチャンスになると考えて手を上げた。Society 5.0を身近に感じる社会が5年後には来るとみて関わっている」(中西社長)(写真:日経クロステック)
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 同ラボの活動は、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ロボティクス、ビッグデータ、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)といった最新技術の他、日本に培われた「ものづくり」技術なども結び付けるインフラづくりを志向する。世界的にスマートシティーに対する投資や開発が盛んになる中、いかに日本の強みを発揮し、実効性のある領域として開拓できるかに挑む。

 なぜ、「コモングラウンド」と呼ぶのか。

 これは大阪・関西万博の誘致時に会場計画アドバイザーを務め、今回、同ラボのディレクターを担う建築家の豊田啓介氏が抱いてきた危機感や焦燥感に関係する。個別に最適化された技術の集積だけでは、大規模かつ複合的な都市活動に合理的に対応する仕組みをつくり得ない。早期に共通化を探らねば、旧来のプラットフォーム開発が陥りがちだった停滞を繰り返しかねない。

 「実空間と情報空間を重ねると一口に言っても非常に難しい。それが徐々に可能になってきて、より規模の大きい、複合度の高い都市空間に挑めるか否かの分岐点に、いま我々はいる」と豊田氏は語る。「企業や業界の中で閉じてしまった取り組みでは、都市の複雑性に対応する技術やサービスを実装できない。現実社会では使い物にならない恐れがある」(同氏)

都市空間におけるコモングラウンド概念を提唱し、コモングラウンド・リビングラボのディレクターを担う建築家の豊田氏。noizパートナー、gluonパートナー、東京大学生産技術研究所客員教授などとして活動する他、25年日本国際博覧会協会People’s Living Lab促進会議有識者を務める(写真:日経クロステック)
都市空間におけるコモングラウンド概念を提唱し、コモングラウンド・リビングラボのディレクターを担う建築家の豊田氏。noizパートナー、gluonパートナー、東京大学生産技術研究所客員教授などとして活動する他、25年日本国際博覧会協会People’s Living Lab促進会議有識者を務める(写真:日経クロステック)
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 同ラボは、コモングラウンド・リビングラボ運営委員会がメンバー制によって運営する。

 運営委員会は、大阪商工会議所や、豊田氏がパートナーとして関わるgluon(グルーオン、東京・目黒)の他、竹中工務店、中西金属工業、日立製作所、三菱総合研究所で構成される。また、11月30日時点のメンバー企業(予定)は、大阪ガス、コクヨ、シリコンスタジオ、大和ハウス、NTT西日本(以上5社はゴールド会員)、NTTドコモ、大広、凸版印刷、パナソニック(以上4社はシルバー会員)となっている。

メンバー制によるコモングラウンド・リビングラボの運営体制図(資料:コモングラウンド・リビングラボ運営委員会)
メンバー制によるコモングラウンド・リビングラボの運営体制図(資料:コモングラウンド・リビングラボ運営委員会)
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 今回、幅広くメンバー企業を募るために、プラットフォーム構築の初期段階でラボの公開に踏み切った。現時点のIoT環境の整備に関しては、竹中工務店と日立製作所が共同で携わっている。また、既存建物の利用になるため、空間の3Dスキャンをクモノスコーポレーション(大阪府箕面市)が担当し、オリジナル家具などを含むラボ内の3Dデータ化を行っている。

2025年大阪・関西万博をマイルストーンとする

 「大阪・関西万博の開催は千載一遇の機会。タイミングとして逃す手はない」と豊田氏は強調する。万博会場では半年間、仮構築された都市的状況の中で可能な限りの実験ができる。ステークホルダーとなる住民の存在しない場所なので、実験のハードルが低くなる。万博自体はゴールではなく、知見やデータを蓄積し、25年以降、実在する都市への実装が本番の目標となる。

コモングラウンド・リビングラボによる実証実験の展開ロードマップ(資料:コモングラウンド・リビングラボ運営委員会)
コモングラウンド・リビングラボによる実証実験の展開ロードマップ(資料:コモングラウンド・リビングラボ運営委員会)
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 今後、段階的にラボの設備・機能を拡充する。グランドオープンは21年春を予定している。

 「小さく始め、室内から不確定要素の多い室外へと拡張する。順次規模を大きくし、複合度を高める」と豊田氏は語る。参画企業・団体が増えるほど、共通プラットフォームとしての方向性を定めやすくなる。1業種・業態で1社とするような制限は設けずにオープンに展開する。「期待値として、21年春ごろには30社、夏ごろには50社が参画している状態にしたい」(同氏)

コモングラウンド・リビングラボのシェアオフィス部分。21年春までのセミオープン期間は、シェアオフィスと共有実験場を運用する。オフィス部分でもロボットによる作業を実験するので、あえて不定形のデスクを配置している(写真:日経クロステック)
コモングラウンド・リビングラボのシェアオフィス部分。21年春までのセミオープン期間は、シェアオフィスと共有実験場を運用する。オフィス部分でもロボットによる作業を実験するので、あえて不定形のデスクを配置している(写真:日経クロステック)
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コモングラウンド・リビングラボのシェアオフィス部分。センサーが苦手とするガラスを多用し、扉も内開きと外開きを交ぜている(写真:日経クロステック)
コモングラウンド・リビングラボのシェアオフィス部分。センサーが苦手とするガラスを多用し、扉も内開きと外開きを交ぜている(写真:日経クロステック)
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 同ラボの公開に際し、改めてコモングラウンドに関する説明、および実験デモンストレーションが行われた。その概略を以下に紹介する。