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 2021年3月30日、東証マザーズ市場に新規上場したスパイダープラスは、施工管理アプリ「SPIDERPLUS(スパイダープラス)」の開発・販売を手掛ける建設テック系のスタートアップ企業だ。職人として、工事会社の社長としての経験を基にICT(情報通信技術)事業に乗り出し、他社に先駆けてIPO(新規株式公開)にこぎつけた異色の経営者、伊藤謙自社長に上場までの道程と今後の戦略を聞いた。(聞き手:木村 駿)

伊藤 謙自氏(いとう・けんじ)
伊藤 謙自氏(いとう・けんじ)
スパイダープラス代表取締役CEO(最高経営責任者)。高校卒業後、建材商社勤務を経て熱絶縁工事を手掛ける個人事業主として独立。その後、法人化してICT事業に業容を拡大した(写真:日経クロステック)
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(壁に飾ってある劇画調のイラストを見て)あれは、どなたですか。

 田中角栄さんですね。

田中角栄、お好きなんですか。

 ええ。現代の日本で最も出世した人であり、農家出身で中卒ながら総理大臣にまで上り詰めた努力の人。「日本列島改造論」を著し、新幹線や高速道路網を張り巡らせて日本を発展させたスケール感はすごい。100万円を無心しにきた議員に300万円をポンと渡した逸話なども、人間味を感じさせて面白いです。

なるほど。ついでと言ってはなんですが、尊敬する経営者も教えてください。

 僕は(日本電産代表取締役会長の)永守重信さんが好きです。モーターに徹底的にこだわり、M&A(合併・買収)は自分たちとシナジーのある会社としかしない。しかも黒字化する。こうと決めた分野で、あそこまで会社を成長させた。経営者として、とても筋が通っていると思います。僕自身、建設業からスタートして、どうやったら業界が良くなるか、生産性が上がるかを考えてICT事業に乗り出し、今に至っています。永守さんのブレない姿勢から学ぶことは多い。

伊藤さんは熱絶縁工事業から経営者としてのキャリアをスタートしたそうですね。

 高校を卒業して最初に就職したのは、サブコンに対して配管部品や支持金具などを販売する会社でした。そこで断熱材を販売する部署に配属されて営業をするうちに、取引先から「うちに来ないか」と誘われたのです。それで転職し、職人を束ねる代理人として断熱工事を担当することになりました。材料の手配から見積もりまで、1年ほどかけて仕事を覚えました。

 断熱材のことも、工事のことも分かってきたし、あとは職人の仕事を覚えれば独立できる――。あるとき、そんなふうに思い立ち、下請けの親方に「独立したいから修業させてください」と頼み込んだ。1年間、職人として腕を磨き、1997年に個人事業主として仕事を始めました。僕の祖父と父は、2人とも一代で事業を立ち上げていますので、自分にもどこかに社長になりたい気持ちがあったのでしょうね。

 職人をやっていた頃は、まるでスパイダーマンのようにはいつくばって、天井裏を移動していました。足場板にあおむけになって配管にグラスウールを施工していると、粉が顔に降ってくるんです。仕事が終わって顔を洗っているとジャリジャリしてね。最初のうちは顔も腕も真っ赤になっていました。

そこからどんないきさつがあって、ICT事業に乗り出したのですか。

 職人としてスタートして、次はサブコンからじかに仕事をもらえるように法人化しました。これまでに東京ドームや東京スカイツリーなど、いろんな工事を担当させていただきました。サブコンから仕事をもらうと、図面がどさっと送られてくるんです。我々はその図面を使って数量を拾い、積算するわけです。これがとにかく大変。色鉛筆と三角スケールを使って、断熱する箇所を全て洗い出さなければなりません。