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 建物の屋上から巨大な建材がぶら下がり、4階の外壁に覆いかぶさっている。どうやらこの建材は、強風で屋上から剥がれた断熱防水層のようだ――。

 2021年3月10日に、札幌市西区に立つ築16年の鉄筋コンクリート(RC)造、4階建て賃貸マンションでこのような被害が発生し、騒然となった。札幌市消防局によると、剥離した面積は16m×8m。日経アーキテクチュアが入手したこの賃貸マンションの建築計画概要書と照らし合わせると、屋上のほぼ全面に及んでいた。

2021年3月10日に札幌市内で吹き荒れた強風で、屋上から断熱防水層が剥がれたとみられる同市西区に立つRC造の賃貸マンション。複数の作業員がクレーンを使って、屋上の断熱防水層を撤去している。札幌市消防局に被害が通報されてから約7時間後の午後4時50分ごろに撮影(写真:栃木 渡)
2021年3月10日に札幌市内で吹き荒れた強風で、屋上から断熱防水層が剥がれたとみられる同市西区に立つRC造の賃貸マンション。複数の作業員がクレーンを使って、屋上の断熱防水層を撤去している。札幌市消防局に被害が通報されてから約7時間後の午後4時50分ごろに撮影(写真:栃木 渡)
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 同日に札幌管区気象台が観測した最大瞬間風速は27m/sと、同市の基準風速である32m/sには達していなかった。しかし、市内ではこの賃貸マンションのほかにも強風でトタンぶきの屋根材が剥がれる被害が3件、札幌市消防局に通報されている。

 この賃貸マンションを設計・施工した建設会社は取材に応じなかったため、寒冷地における集合住宅の設計に詳しいさくら事務所ホームインスペクション北海道(札幌市)の栃木渡代表と、アスファルト防水工事に詳しい全国防水工事業協会北海道支部の内山理技術主幹に協力を依頼。地元テレビ局が撮影した現場の映像などを基に、断熱防水層が剥がれた原因の推定を試みた。

 現場の映像から、屋上に施工されていたのは、コンクリートの躯体(くたい)に接着層、断熱材、改質アスファルトルーフィングを重ねる「屋根露出防水絶縁断熱工法」だとみられる。剥がれたのは躯体と断熱材の界面のようだ。躯体と断熱材の接着には溶融アスファルトルーフィングが使われていたと推定される。寒冷地はもちろん、全国で採用されている一般的な工法だ。

屋上から剥がれた断熱防水層。コンクリートの躯体に接着層、断熱材、改質アスファルトルーフィングを重ねる「屋根露出防水絶縁断熱工法」だとみられる。剥がれたのは躯体と断熱材の界面のようだ(写真:栃木 渡)
屋上から剥がれた断熱防水層。コンクリートの躯体に接着層、断熱材、改質アスファルトルーフィングを重ねる「屋根露出防水絶縁断熱工法」だとみられる。剥がれたのは躯体と断熱材の界面のようだ(写真:栃木 渡)
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 栃木代表が真っ先に注目したのは、屋根にパラペットの立ち上がりがほとんどないとみられる点だ 。

屋根にはパラペットの立ち上がりがほとんどないように見える(写真:栃木 渡)
屋根にはパラペットの立ち上がりがほとんどないように見える(写真:栃木 渡)
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 この賃貸マンションの建築計画概要書から、その理由をうかがい知ることができる。最高高さを9.9mにしている点だ。「建築基準法が求める最低天井高の2.1mと配管スペースなどを4層分確保して、最高高さを9.9mに抑えるとなると、パラペットを設置するのは極めて難しいだろう」と栃木代表は話す。

 パラペットの立ち上がりが十分でないと、屋上防水が風の影響を受けやすくなる。栃木代表は「外周部の断熱防水層に風が直接当たるので、隙間があるとそこから風が吹き込み、断熱材を引き剥がす負圧が生じやすくなる」と説明する。