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 建築テック系スタートアップのVUILD(ヴィルド、川崎市)は、デジタル家づくりプラットフォームと称するサービス「Nesting β(ネスティング・ベータ)」の開発状況を2021年5月10日に公表した。ティーザーサイトを同日に公開しており、北海道弟子屈(てしかが)町で進める先行プロジェクトが6月末に着工する予定だ。

 共創型戦略デザインファームのBIOTOPE(ビオトープ、東京・目黒)と協業している。「家づくりのハードウエアとソフトウエアをVUILDが提供し、これからの暮らしに関するビジョンメーキングやマーケティングに類する部分をBIOTOPEが主導する。『ポスト資本主義の住まいをつくる』『創造性を民主化する』といった共通の目標の下、一緒に仕組みを考えてきた」とVUILDの秋吉浩気代表は説明する。

デジタル家づくりプラットフォーム「Nesting β」によって実現できる家のイメージ(資料:VUILD)
デジタル家づくりプラットフォーム「Nesting β」によって実現できる家のイメージ(資料:VUILD)
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 Nesting βは、デジタル技術を用い、理想の暮らしを自らつくり出す体験を一般ユーザーに提供しようとするものだ。

 これまでにVUILDが手掛けてきた、オーダーメード家具づくりのデジタルプラットフォーム「EMARF(エマーフ)」や、“現代の合掌造り”をテーマとする建築プロジェクト「まれびとの家」の延長線上にある。いずれも、汎用型の3D木材加工機「Shopbot(ショップボット)」によるデジタル木工を前提とし、「全ての人が(建築の)設計者になり得る」という考え方に基づく取り組みだ。

富山県南砺市利賀村に19年10月に完成した「まれびとの家」。VUILDが持つデジタル技術によって地域の伝統構法である合掌造りをアップデートした。小さくて軽いパーツによる構法を考案し、敷地周辺の未活用の木材をShopbotで加工して建設した。20年度の「グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)」を受賞している(写真:日経クロステック)
富山県南砺市利賀村に19年10月に完成した「まれびとの家」。VUILDが持つデジタル技術によって地域の伝統構法である合掌造りをアップデートした。小さくて軽いパーツによる構法を考案し、敷地周辺の未活用の木材をShopbotで加工して建設した。20年度の「グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)」を受賞している(写真:日経クロステック)
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 「デジタル技術で建築産業を変えようとするときに、“本丸”は家であるはずだと考えている。実証実験としてのまれびとの家の取り組みを発展させて事業化に移行させた」と秋吉代表は語る。

 VUILDは、米国製のツールであるShopbotの国内販売代理店を務め、配備拠点を各地に広げてきた。現在、全国約70カ所のネットワークを持つ。「地域材によるパーツの製造・流通プラットフォームを持つのが我々の強みだ。そこにつなげていけるよう、家の設計のツールとプラットフォームを確立するのが、サービスを提供する側の今回のテーマとなっている」(秋吉代表)

川崎市のVUILD本社に置かれている3D木材加工機「Shopbot」(写真:日経クロステック)
川崎市のVUILD本社に置かれている3D木材加工機「Shopbot」(写真:日経クロステック)
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「松葉杖」型の架構ユニットを並べて構成

 「家」と呼んでいるが、必ずしも個人住宅のみを想定したものではない。セカンドハウスやゲストハウスの他、書斎、アトリエ、スタジオに類する空間の確保、あるいは店舗利用といった需要にも応える。

 プランニングに関しては、タブレット上などでアプリを操作し、専門知識のないユーザーでも自ら試行錯誤できるようにする。間取りを描くと、リアルタイムで家の形が立ち上がり、概算の見積もりが示される。法規対応や構造強度の適否はアプリ側が判定してくれる。

Nesting βによる家づくりの流れ。1間×1間(1820mm×1820mm)のグリッド上に床を設定し、求める暮らし方に従って家具や水回りのコアを配置する。壁や開口部の位置を決めると、その間取りに応じて立体的に骨格が組み上がる(資料:VUILD)
Nesting βによる家づくりの流れ。1間×1間(1820mm×1820mm)のグリッド上に床を設定し、求める暮らし方に従って家具や水回りのコアを配置する。壁や開口部の位置を決めると、その間取りに応じて立体的に骨格が組み上がる(資料:VUILD)
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 「プラモデルのように家をつくる」というユーザー体験を可能とするために、独自の構法を検討した。構造計画には、茨田一平氏と藤田慎之輔氏が共同代表を務めるDN-Archiが協力している。

 基本となるのは、「ベッキーユ(松葉杖)」と呼ぶ、1本柱と跳ね出しの梁を一体化した格好の木材ユニットだ。合板を間に挟み、Shopbotで切り出した幅240mm程度のスギ材を両側に敷き詰めるように並べてビス留めし、3層構成のユニットを製作する。補助的に接着剤を用いる。

 この「自作の集成材」のようなベッキーユによる架構を1間(1820mm)おきに配置し、間にユニット化されたパネル(耐力壁)や開口部を組み込む。スパンの間数に応じ、高さ5~6mの内部空間が生まれる。

現場に搬入されたユニットをプラモデル感覚で組み立てる。1本柱と跳ね出しの梁を一体化した「ベッキーユ」は、出隅の部分とその他の部分の2種類を用いる。「等級のあまり高くないスギ材でも耐震性を確保できるように計画している」(秋吉代表)(資料:VUILD)
現場に搬入されたユニットをプラモデル感覚で組み立てる。1本柱と跳ね出しの梁を一体化した「ベッキーユ」は、出隅の部分とその他の部分の2種類を用いる。「等級のあまり高くないスギ材でも耐震性を確保できるように計画している」(秋吉代表)(資料:VUILD)
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 「建築基準法第22条区域であれば実現できる仕様とし、確認申請を前提に図面出力も可能となるようにする。将来的には、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)と呼ばれている領域を全て一般ユーザー用のアプリで完結させるところまで持っていきたい」(秋吉代表)

 ユニットを立ち上げるだけといってもベッキーユのサイズ自体は大きいので、建設は工務店が担当する。基本的にユーザーはDIYのような参画の仕方はできないが、自分のプランニング通りにユニットが組まれる様子が可視化されるので、家族や仲間と家づくりのプロセスを共有しやすくなる。

 建設費(材工)に関しては、初期プロジェクトで合理的な建て方を見極めた後、坪60万円程度に落ち着かせたいとしている。