全2971文字
PR

 2021年5月22日からイタリア・ベネチアで「第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」が開催中だ。21年11月21日までの開催を予定している。総合ディレクターは米マサチューセッツ工科大学(MIT)の建築計画学部長Hashim Sarkis(ハーシム・サルキース)氏が務め、総合テーマに「How will we live together?」を掲げた。国際交流基金が主催する日本館のキュレーターは、明治大学准教授の門脇耕三氏が担った。

「第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」日本館の外観。単管パイプとブルーシートが印象的だ。2021年5月20日に撮影した(写真:Alberto Strada、国際交流基金)
「第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」日本館の外観。単管パイプとブルーシートが印象的だ。2021年5月20日に撮影した(写真:Alberto Strada、国際交流基金)
[画像のクリックで拡大表示]

 日本館では「ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡」を展示タイトルに掲げた。東京郊外にあった解体予定の木造住宅「高見澤邸」を解体してベネチアへ運搬。ブルーシートや単管パイプ、メッシュシートなどと組み合わせながら、新たな姿へ再構築した。その一連のプロセスを展示している。

解体前の「高見澤邸」(写真:Jan Vranovský)
解体前の「高見澤邸」(写真:Jan Vranovský)
[画像のクリックで拡大表示]

 内覧期間を含め、21年5月27日までに計6532人が日本館へ来場し、その多くはイタリア、ドイツ、フランスから来ている。日本館の現地コーディネーターを務める武藤春美氏は「現地の反応はとても良い。日本的である、感傷的、ノスタルジック、伝統的、美しいといった印象を語る方が多い」とコメントした。

 日本では新築住宅の建設が進む一方、高齢化や人口減少により空き家が増え、多くの住宅が取り壊されている。このような日本の社会的・建築的状況を体験できる展示を実物大のスケールでつくることを目指し、この展示形態へと至った。

 門脇氏はこの展示を経て得たことを、日経クロステックの取材で次のように語った。「木造住宅は重要な資源の山で、転用可能な部材の宝庫であり、新築やリノベーションへの転用は十分可能であると分かった。その一方、現在の住宅は転用を基本的に前提としておらず、新築で建てる際の手間と時間が減るように組み立てられていて、解体しにくい課題がある」

 ベネチアでの再構築は、建物をそのまま再現したわけではない。住宅の屋根はベンチへ、エメラルドグリーンの外壁は光を投影するスクリーンへ、赤いトタン壁は展示壁面へとつくり替えている。

 屋根をつくり替えたベンチは、小屋組みをそのままに、高さや垂木部分の素材などを変更して再構築した。新型コロナウイルスの感染対策として、距離をとって座ることを促す木製の棒状パーツを設置した。

「高見澤邸」の屋根をつくり替えたベンチ。高さや垂木部分の素材を変更してつくった。2021年5月20日に撮影した(写真:Alberto Strada、国際交流基金)
「高見澤邸」の屋根をつくり替えたベンチ。高さや垂木部分の素材を変更してつくった。2021年5月20日に撮影した(写真:Alberto Strada、国際交流基金)
[画像のクリックで拡大表示]

 スクリーンの軸組みは、「高見澤邸」のものを主に使用している。移動の過程や腐食によって欠損した部分には、新たにイタリアの木材を使用して再構築した。この他、エメラルドグリーンが印象的だった「高見澤邸」の外壁と同じ色に染めた、メッシュ素材を使用している。メッシュ素材にはプリーツ加工を施してある。

「高見澤邸」の外壁をつくり替えたスクリーン。メッシュ素材は「高見澤邸」の外壁と同じ色に染めた。2021年5月20日に撮影した(写真:Alberto Strada、国際交流基金)
「高見澤邸」の外壁をつくり替えたスクリーン。メッシュ素材は「高見澤邸」の外壁と同じ色に染めた。2021年5月20日に撮影した(写真:Alberto Strada、国際交流基金)
[画像のクリックで拡大表示]

 トタン壁をつくり替えた展示壁面では、新たに透明な波板を使用。「高見澤邸」の波板を再現している。雨どいなどは「高見澤邸」の部品をそのまま使用した。木材は全て「高見澤邸」の古材を使用。様々な部分に使用されていた木材を、接ぎ木の手法を活用して再構築した。3Dスキャンのデータを平面に投影したパーツなど、デジタル技術を活用した部品を交ぜてつくった。

「高見澤邸」のトタン壁をつくり替えた展示壁面。デジタル技術を活用してつくった部品を使用している。2021年5月20日に撮影した(写真:Alberto Strada、国際交流基金)
「高見澤邸」のトタン壁をつくり替えた展示壁面。デジタル技術を活用してつくった部品を使用している。2021年5月20日に撮影した(写真:Alberto Strada、国際交流基金)
[画像のクリックで拡大表示]

 施工中は、日本とベネチアをオンラインの通信システムで常時接続した。日本でモックアップをつくり、仕組みや作製方法などをベネチアの職人へ教える。ベネチアでの作業をスムーズにするために、あらかじめ日本で仮組みの実験や各部材の3Dスキャンを取る他、部材に組み立てる順番と向きを示した矢印を記載するといった工夫をした。

日本館のピロティの様子。長坂常氏らが開発した丸のこ旋盤加工台が置いてある。丸のこ旋盤加工台自体も現地でつくった。2021年5月20日に撮影した(写真:Alberto Strada、国際交流基金)
日本館のピロティの様子。長坂常氏らが開発した丸のこ旋盤加工台が置いてある。丸のこ旋盤加工台自体も現地でつくった。2021年5月20日に撮影した(写真:Alberto Strada、国際交流基金)
[画像のクリックで拡大表示]
日本館内部の展示の様子。部材を年代順に並べて展示している。壁面には部材同様に、「高見澤邸」に関連する写真を年代順に展示している。2021年5月20日に撮影した(写真:Alberto Strada、国際交流基金)
日本館内部の展示の様子。部材を年代順に並べて展示している。壁面には部材同様に、「高見澤邸」に関連する写真を年代順に展示している。2021年5月20日に撮影した(写真:Alberto Strada、国際交流基金)
[画像のクリックで拡大表示]

 展示について門脇氏は、過去の住宅を引き継いでつくることは、これまでその住宅に携わった職人や大工との協働に当たるという考えのもと「時代や場所を超えたような協働のプロセスをいかにつくるかが今回の主眼だった」と説明した。

 日本館の展示に参画した建築家は、長坂常氏(スキーマ建築計画代表)、岩瀬諒子氏(岩瀬諒子設計事務所代表)、木内俊克氏(木内建築計画事務所代表)、砂山太一氏(京都市立芸術大学准教授・sunayama studio代表)、元木大輔氏(DDAA代表)。デザイナーとして長嶋りかこ氏(village代表)が携わった。施工は福元成武氏(TANK代表)らが担当した。