東京五輪・パラリンピック大会組織委員会(組織委)は2021年6月20日、選手村の居住棟や共用施設の他、選手村ビレッジプラザなどの施設内部を報道陣に公開した。選手が滞在する居住棟の寝室は2方向換気ができるよう、全て窓を持つ向きで配置。村内の一画に発熱外来の仮設医療施設を設けるなど、感染対策に配慮した。五輪では7月13日~8月11日、パラリンピックでは8月17日~9月8日に本格利用する予定だ。
選手村は競技会場が集中する臨海部、東京・晴海エリアにある。全体の敷地面積は約44万m2で、三方が海に囲まれた場所だ。現在は、地上14~18階建ての居住棟が合計21棟、約3800戸立ち並ぶ。五輪・パラリンピック開催後、居住棟は内装を全て解体してスケルトン(躯体=くたい)に戻し、「HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)」と呼ぶ分譲・賃貸集合住宅街として生まれ変わる。
居住棟のファサードデザインには複数のパターンがあり、デザインには安田アトリエ(東京・目黒)や光井純アンドアソシエーツ建築設計事務所(東京・品川、JMA)、NAP建築設計事務所(東京・港)、サポーズデザインオフィス(広島市)などが参画している。
21年6月20日、報道陣に公開されたのは、南端の海沿いに建つ棟の10階にある3つの住戸だった。外観は波打つような形のバルコニーが特徴で、JMAがデザインした。
選手の滞在に向けて組織委は、五輪時に1万8000台、パラリンピック時に8000台のベッドを用意する。なるべく同じ国のチームが同じ棟で暮らせるように割り振るという。部屋は1つの住戸に間仕切りを設け、選手やスタッフなどが寝泊まりする寝室(公開された住戸では合計8ベッドを配置)や、テーブルと椅子を置いたダイニングルームをレイアウトした。
シャワーやトイレなどは、4台のベッドに対し1つずつの割合で設置する。火災を防ぐためキッチンはない。窓がある向きに全ての寝室を配置しているため、扉や窓を開けると海風が入り、2方向換気もしやすい。
寝室はシングルルームで9m2以上、ツインルームで12m2以上の広さを確保するが、どのようにベッドを割り振るのかは各国の選手団に任せるという。ベッドの移動がしやすいように、軽い段ボール製のベッドフレームを採用。また、選手の睡眠を妨げないように、窓には片開きの遮光カーテンをつり下げ、長さも床すれすれにして光が入らないように配慮した。
充実した共用部も特徴的だ。組織委大会運営局選手村マネジメント部の北島隆ビレッジゼネラルマネージャー(VGM)は、「廊下は車椅子が2台すれ違える幅員としている。将来、住宅として活用される際にも、ベビーカーがすれ違えるなど使いやすいと思う」と語る。
選手が憩える場として居住棟の間に緑地を配置し、居住ゾーンの端にある晴海ふ頭公園も再整備した。海沿いに走る長さ約900mの緑道は、選手の動線とフィールドキャスト(大会ボランティア)の動線を分離するように配慮する。
選手村の居住ゾーンには居住棟の他、複数の共用施設がある。選手の食をサポートするのが、選手村の中心部に立つ仮設の「メインダイニングホール」だ。五輪時は1階に約900席、2階に約2100席を用意し、24時間営業で1日約4万5000食を提供する。入り口近くにあるセンサーで選手の入退室の状況を管理し、混雑状況を居住棟の1階に設置したモニターや携帯アプリなどに表示。選手がそれぞれ混雑を避けて来られるようにする。
さらに、テーブルの上にはアクリル板のパーティション設け、ウエットティッシュを置くなどして感染対策に努める。組織委大会運営局飲食サービス部事業者調整課選手村担当の中島康高課長は「ビル管理法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)では、必要換気量を1人当たり毎時30m2と定めている。メインダイニングホールはその基準をクリアし、毎時3~4回、全体の空気が入れ替わる程度の換気性能を持たせている」と説明した。