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 大阪市西成区の住宅地で擁壁が崩壊し、2棟(計4戸)の住宅が崖下へ次々に崩落した2021年6月25日の事故。なぜ、擁壁は崩壊したのか。地盤の専門家への取材を基に原因を探る。

 事故があったのは、南北に細長い崖沿いの土地に、複数の住宅が連なって立つエリア。最初に、南から2番目に立つ連棟住宅(2戸)が擁壁の崩壊に伴って崩落し、しばらくして、その北隣に立っていた別の連棟住宅(2戸)も崩落した。

空石積み擁壁が上部から崩れ始め、住宅が転落しつつある様子。隣接する3階建ての戸建て住宅(写真右側)を支える擁壁と地盤も、上部が先に崩落している(写真:住民提供)
空石積み擁壁が上部から崩れ始め、住宅が転落しつつある様子。隣接する3階建ての戸建て住宅(写真右側)を支える擁壁と地盤も、上部が先に崩落している(写真:住民提供)
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 崩壊した擁壁は、裏込め土と石だけでつくられた古い「空石積み」だった。地盤品質判定士などの資格を持ち、地盤災害や擁壁の構造に詳しい地盤リスク研究所(大阪市)の太田英将相談役は、「空石積み擁壁は長い年月の間に裏込め土が流失することで、強度が著しく低下しやすい」と指摘する。

擁壁の北側の空石積み。裏込め土と石だけでつくられている。写真の左下部分には膨らみが見られる(写真:日経クロステック)
擁壁の北側の空石積み。裏込め土と石だけでつくられている。写真の左下部分には膨らみが見られる(写真:日経クロステック)
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 太田相談役は、事故現場の空石積み擁壁が上部から崩れ始めていた点に注目する。「雨水などが擁壁上部に流れ込み、裏込め土が流失して空洞化したことで、擁壁上部が座屈した恐れがある。その結果、地表面が沈下して住宅が傾斜したのではないか。住宅が傾くときに水道管が外れて裏込め土に水が供給され、さらに浸食を進めたとも考えられる」などと推定する。

地盤リスク研究所の太田英将相談役が考える崩落のメカニズム。空石積み擁壁の裏込め土が流失して空洞化し、擁壁上部が座屈したと推定する(資料:地盤リスク研究所)
地盤リスク研究所の太田英将相談役が考える崩落のメカニズム。空石積み擁壁の裏込め土が流失して空洞化し、擁壁上部が座屈したと推定する(資料:地盤リスク研究所)
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最初に崩落した住宅の水道管は破損していた。崩落前にも水漏れが確認されている。6月26日に撮影(写真:日経クロステック)
最初に崩落した住宅の水道管は破損していた。崩落前にも水漏れが確認されている。6月26日に撮影(写真:日経クロステック)
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