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 2019年10月の台風19号(東日本台風)がもたらした内水氾濫で地下の電気設備や収蔵庫が浸水し、約22万9000点の収蔵品が被害を受けた川崎市市民ミュージアム。川崎市文化芸術振興会議は21年7月12日、浸水・土砂災害リスクの少ない場所で再建する必要があると福田紀彦市長に答申した。市は答申を踏まえて、21年8月中に再建に向けた方針案を定める予定。意見公募を経て、同年10~11月ごろの方針作成を目指す。

浸水被害を受ける前の川崎市市民ミュージアムの外観(写真:川崎市)
浸水被害を受ける前の川崎市市民ミュージアムの外観(写真:川崎市)
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浸水被害を受けた後の川崎市市民ミュージアムの外観。被災後は囲いを設置し、一般の人が立ち入れないようにしている。囲いの内側にはプレハブやコンテナを設置し、この中で収蔵品の応急処置や保管をしている(写真:川崎市)
浸水被害を受けた後の川崎市市民ミュージアムの外観。被災後は囲いを設置し、一般の人が立ち入れないようにしている。囲いの内側にはプレハブやコンテナを設置し、この中で収蔵品の応急処置や保管をしている(写真:川崎市)
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 川崎市中原区の等々力緑地に立つ川崎市市民ミュージアムは、博物館と美術館の複合文化施設だ。建築家の故菊竹清訓氏が設計を手掛け、1988年に開館した。地下1階・地上3階建ての鉄骨鉄筋コンクリート造で、延べ面積は約1万9500m2だ。

 答申では、現在も休館が続く現施設を再開せず、なるべく災害リスクの少ない場所での再建が必要であるとした。復旧には浸水対策費などを除いても概算で約25億8000万円もの費用がかかる見込みであること、2018年改定の洪水ハザードマップで想定浸水深が5~10mとされており、2階まで浸水する恐れがあることなどが理由だ。地階の収蔵庫などを3階に整備するのは構造耐力上、難しいことが分かっている。

 移設の候補地は収蔵品を被災させないことを最優先に、浸水の恐れがあるエリアや土砂災害警戒区域などを避けて選定することが望ましいとした。市民アンケートで、公共交通などの利便性や緑豊かな屋外環境などを求める声が多かった点についてもできる限り考慮する必要があるとの考えを示した。展示室と収蔵庫については、同じ施設内に整備することが望ましいとしながらも、施設の規模などによっては別々に設けることもあり得るとした。

川崎市市民ミュージアム地下駐車場の浸水時と排水後の様子(資料:川崎市)
川崎市市民ミュージアム地下駐車場の浸水時と排水後の様子(資料:川崎市)
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浸水時に大きく損傷した川崎市市民ミュージアム地下収蔵庫の扉(写真:川崎市)
浸水時に大きく損傷した川崎市市民ミュージアム地下収蔵庫の扉(写真:川崎市)
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 川崎市市民文化局市民文化振興室で市民ミュージアム調整担当課長を務める平井孝氏は移設候補地について「川崎市は津波、洪水、土砂災害、内水のハザードマップを公開しているが、これら全てをクリアできる場所はほぼ無い。あるとしても交通の便が悪い場所になる。多額の費用を投じて民間の土地を購入し、再建するのも難しい」と厳しい状況を説明する。

 現施設について平井氏は「世界的に有名な建築家の設計のため、遺族などと相談して今後の対応を判断する必要がある」としつつ、「何かに活用できないかとの意見もあるが、復旧や浸水対策などに多額の費用がかかり、難しい。維持・保存にもコストがかかるため、市民の理解が得られるかという課題もある」と述べる。

 市民ミュージアムでは19年10月22日から、収蔵品を搬出し、洗浄などの応急処置や修復をする「収蔵品レスキュー」を実施している。21年4月30日時点で、被害を受けた約22万9000点の収蔵品のうち2366点の修復が完了している。

 その一方で、被害を受けた収蔵品のうちこれまでに 3万8000点以上を処分せざるを得なかった。市民文化振興室で収蔵品修復調整担当課長を務める磯﨑茂氏は「カビなどの繁殖が激しく、ほかの作品に影響を与えかねないもの、作品としての価値が損なわれてしまったものは、やむなく処分した」と説明する。現在も残りの収蔵品の修復作業が続いている。