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 建築研究所(茨城県つくば市)は、既存マンションが浸水した際に生じる共用部分の復旧費用と浸水を防ぐ対策の費用対効果を、都心型と郊外型の典型的なモデルで試算した。都心型のモデルでは、水害発生頻度を考慮した場合に85%が40万円程度の軽度浸水対策費用を10年以内に回収できるという試算が得られた。

 建築研究所では、頻発化・激甚化する水害リスクを踏まえた建築と土地利用対策に関する研究に力を注いでいる。既存マンションの浸水対策の費用対効果もその一環で、同研究所住宅・都市研究グループの木内望主席研究監らが2020年度にまとめて、21年9月9日に日本建築学会の大会で発表した。19年度に公表した戸建て住宅の浸水対策の費用対効果に続く成果だ。

 「マンションのうち既存改修をテーマにしたのは、浸水リスクを抱えた既存マンションが数多くあるからだ。既存の分譲マンションに浸水対策を導入するには区分所有所は合意形成が必要で、費用対効果の検討が欠かせない。参考になる研究が少ないので取り組んだ」と木内主席研究監は話す。

 費用対効果の試算に用いるマンションモデルの設計と費用の算定の実務は、マンションの設計と大規模修繕や浸水対策のコンサルティングを手掛ける翔設計(東京・渋谷)が担当した。マンションの維持保全が専門の明海大学不動産学部の藤木亮介准教授も研究に協力した。

 費用対効果の試算は、次の方法で行った。都心と駅周辺に立つ53棟の既存マンションを分析。それを元に、典型的な都心型モデルを設定した。建築面積が567m2、延べ面積が6900m2、住戸数が65戸からなる地下1階・地上14階建て店舗併用マンションで、地下階に電気設備と給水設備、雨水貯留槽、機械式駐車場を備えている。このマンションについて、3つの浸水レベルごとに、対策なしで浸水した場合の復旧費用のほか、浸水防止対策を導入した場合の対策費用と復旧費用を試算し、費用対効果を検証した。

 3つの浸水レベルは次の通りだ。「軽度浸水」は地盤からの浸水深30cmで、ゲリラ豪雨などによる内水氾濫を想定している。「中度浸水」は同浸水深50cmで、水路や支川から本川への排水ができなくなる湛水型の内水氾濫に、雨水管などからの逆流が加わることを想定している。「重度浸水」は同浸水深150cmで、河川からの外水氾濫を想定した。

試算に用いた都心型モデル。建築面積が567m2、延べ面積が6900m2、住戸数が65戸からなる、地下1階・地上14階建て店舗併用タイプ。地下階に電気室や受水槽ポンプ室、雨水貯湯槽、機械式駐車場のピットがある(資料:建築研究所)
試算に用いた都心型モデル。建築面積が567m2、延べ面積が6900m2、住戸数が65戸からなる、地下1階・地上14階建て店舗併用タイプ。地下階に電気室や受水槽ポンプ室、雨水貯湯槽、機械式駐車場のピットがある(資料:建築研究所)
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