青森県黒石市は2021年9月6日、「黒石市まちなかエリアリノベーションプラン策定等業務委託」に関する公募型プロポーザルで、梓設計(東京・大田)・都市環境研究所(東京・文京)・蟻塚学建築設計事務所(青森県弘前市)共同企業体(JV)を最優秀者に選定し、契約を締結したと発表した。梓設計にとっては初のエリアリノベーションとなる。受注額は8802万2000円(税込み)。履行期限は22年10月14日まで。
黒石市がエリアリノベーションの対象としたのは、「中町こみせ通り」を含む黒石市中町伝統的建造物群保存地区と、国指定名勝「金平成園(澤成園)」や22年度開館予定の「黒石市立図書館」に囲まれたエリアだ。対象地の面積は約1万5000m2。観光資源を備える場所だが、歩行者通行量の減少や空き店舗の増加、公共交通の利用しにくさなどで、このエリアを取り巻く状況は厳しい。訪れる市民も1時間以内の滞在に止まる人が大半だ。
そこでエリア内に立つ既存の市役所や旧大黒デパートなどを解体し、市民サービス施設(仮称)や新庁舎などを新たに整備する。市民サービス施設(仮称)は子育て世代への支援や市民交流の場の創出を狙った地域交流センター機能と市役所機能を備える。新庁舎には議場や災害対策本部を設置する。この他に既存の産業会館も改修する計画だ。
「庁舎再編を契機とし、市民と共にエリアリノベーションと『まち育て』を行うことを最も重視した」と梓設計アーキテクト部門の担当者は説明する。提案の鍵になったのが黒石市伝統の「こみせ」と「かぐじ」だ。「こみせ」とは、店先の庇(ひさし)を連続させてつくった積雪しない歩行者空間のこと。「かぐじ」とは街区中央に各戸が裏庭を確保して設けた雪捨て場のことだ。
市民サービス施設(仮称)、本庁舎、産業会館を分棟配置し、施設間のスペースに「かぐじ」に倣った広場を設ける。そして各施設や広場、駐車場などを屋根付きの「回廊こみせ」でつなぐ。「回廊こみせ」は既存の「こみせ」に接続し、歴史的な街並みとの連続性を図る。「かぐじ」と「こみせ」を生かして、街と行政機能・市民交流機能をつなぎ、人の流れを促すことでにぎわいをつくりだす計画だ。
「歴史資源を生かした街の活性化や分散型庁舎の考え方は他の街にも生かせる」と梓設計の担当者は話す。同社はこれまでも、公共施設のプロポーザルで地域活性化を目指し、まちづくりの中核を担う施設を提案したり、都市開発としてまちづくりに取り組んだりしてきた経緯がある。今後はエリアリノベーションも含め、まちづくりに積極的に取り組む考えだ。