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 東京大学大学院工学系研究科と積水ハウスは2021年10月14日、「未来の住まいのあり方」をテーマとした研究および次世代の建築人材を育成する国際建築教育拠点(SEKISUI HOUSE - KUMA LAB)の研究スペース「T-BOX」を新設し、運用を開始した。同日、積水ハウスの仲井嘉浩社長や、東大特別教授でSEKISUI HOUSE ー KUMA LABのアドバイザーを務める隈研吾氏らが記者会見し、T-BOXを報道陣に初公開した。

 T-BOXは、SEKISUI HOUSE - KUMA LABが東大内で運営する研究施設の呼称だ。「デジタル×建築」の研究分野において世界最高峰の施設になることを目指す。中でも、建築人材の育成と住宅イノベーションに力点を置いている。

東京大学大学院工学系研究科と積水ハウスが設立した国際建築教育拠点(SEKISUI HOUSE - KUMA LAB)の研究スペース「T-BOX」(写真:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
東京大学大学院工学系研究科と積水ハウスが設立した国際建築教育拠点(SEKISUI HOUSE - KUMA LAB)の研究スペース「T-BOX」(写真:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
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 積水ハウスは隈氏らと研究活動を推進していくことで合意。20年6月、東京大学総長室総括プロジェクト機構内に、国際建築教育拠点(SEKISUI HOUSE - KUMA LAB)総括寄付講座を設立した経緯がある。

 会見した隈氏はT-BOXを、建築分野における「デジタルとリアルをつなぐ場にしたい」と語った。「これまでの建築学科はリアルの空間を設計するための研究が中心だった。しかしこれからの時代は、デジタル技術やデジタルの知見がある人といかにつながっていくかが重要になる。相手は海外にいるかもしれない。日本は世界的に見ても建築技術の評価は非常に高いが、一方でデジタル分野の取り組みは遅れている」と指摘する。

SEKISUI HOUSE ー KUMA LABのアドバイザーを務める隈研吾氏。2020年3月に東大教授を退職し、現在は特別教授を務めている(写真:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
SEKISUI HOUSE ー KUMA LABのアドバイザーを務める隈研吾氏。2020年3月に東大教授を退職し、現在は特別教授を務めている(写真:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
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 積水ハウスの仲井社長は「当社は従来、安全で性能が高い住宅を提供することに注力してきた。それに加え、この先は住人の感性に合った家づくりが求められるとみている。工業化住宅が画一的なものからカスタマイズに進化していくうえで、デジタル活用は避けて通れない」と、T-BOX設立の理由を明かした。

会見する積水ハウスの仲井嘉浩社長(左)(写真:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
会見する積水ハウスの仲井嘉浩社長(左)(写真:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
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 T-BOXは、東大本郷地区キャンパスにある工学部1号館の4階にある。延べ面積は約180m2。以前は研究室だった部屋を改装し、デジタル系の工作機械や複写機器などを備えるスペースにつくり替えた。T-BOXは建築学科の学生や教員に限らず、学部内から広く利用者を受け入れる。東大におけるものづくり環境のハブに育てたい考えだ。

隈氏(左)と仲井社長(写真:日経クロステック)
隈氏(左)と仲井社長(写真:日経クロステック)
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T-BOXの室内(写真:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
T-BOXの室内(写真:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
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T-BOXでは、隈研吾建築都市設計事務所が保管していた建築模型やマテリアルなどを「標本」に見立てて、大小様々な木箱「K-BOX」に納めて展示している。隈氏の書籍なども並ぶ(写真:日経クロステック)
T-BOXでは、隈研吾建築都市設計事務所が保管していた建築模型やマテリアルなどを「標本」に見立てて、大小様々な木箱「K-BOX」に納めて展示している。隈氏の書籍なども並ぶ(写真:日経クロステック)
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デジタルファブリケーションの実践スペース(写真:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
デジタルファブリケーションの実践スペース(写真:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
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T-BOXの奥には、SEKISUI HOUSE - KUMA LABのメンバーが主に使う執務室がある(写真:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
T-BOXの奥には、SEKISUI HOUSE - KUMA LABのメンバーが主に使う執務室がある(写真:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
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T-BOXは廊下側がガラス張りになっており、内部が見える。廊下の窓際にも模型などを展示している(写真:日経クロステック)
T-BOXは廊下側がガラス張りになっており、内部が見える。廊下の窓際にも模型などを展示している(写真:日経クロステック)
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東大本郷地区キャンパスにある工学部1号館。増改築を繰り返してきた歴史ある建物だ(写真:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
東大本郷地区キャンパスにある工学部1号館。増改築を繰り返してきた歴史ある建物だ(写真:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
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 SEKISUI HOUSE - KUMA LABは、「国際デザインスタジオ」「デジタルファブリケーションセンター」「デジタルアーカイブセンター」の3つを核とする。今回のT-BOXは、デジタルファブリケーションセンターの一部としての機能が色濃い。

SEKISUI HOUSE - KUMA LABは「国際デザインスタジオ」「デジタルファブリケーションセンター」「デジタルアーカイブセンター」で構成。T-BOXはデジタルファブリケーションセンターの一部とみることもできる(資料:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
SEKISUI HOUSE - KUMA LABは「国際デザインスタジオ」「デジタルファブリケーションセンター」「デジタルアーカイブセンター」で構成。T-BOXはデジタルファブリケーションセンターの一部とみることもできる(資料:東京大学大学院工学系研究科、積水ハウス)
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 国際アドバイザーには、米コロンビア大学美術史学専攻マイヤー・シャピロ講座教授で、米ニューヨーク近代美術館(MoMA)建築デザイン部門元主任学芸員でもあるバリー・バーグドール氏と、米ハーバード大学デザイン大学院(GSD)学部長および建築学専攻ホセ・ルイ・セルト講座教授のサラ・M・ホワイティング氏、そして隈氏とは旧知の仲で積水ハウスの仲井社長を隈氏に紹介したイーソリューションズ(東京・港)の佐々木経世社長を迎える。

 コンピュテーショナルデザインやポストデジタル、アーバンデザイン、建築史学など、建築学の各領域における国際的な研究・教育拠点の確立を目標に掲げる。そして未来の住まいのあり方を探究する。