ロシアのウクライナ侵攻を受けて、多くの難民が国外へ逃げている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2022年3月15日(日本時間16日)の時点でウクライナから累計約300万人が近隣国などへ流出。今後、約400万人まで難民が増えると推計している。隣国のポーランドでは既に180万人以上の難民が流入し、受け入れも限界に達しつつあるといわれている。混乱のさなか、難民支援のために日本からポーランドに駆け付けたのが、建築家の坂茂氏だ。3月11~14日、坂氏は難民受け入れ施設の設営に当たった。
準備は2月末から始まっていた。「テレビで難民の受け入れ施設が映ると、人々が雑魚寝している状況だった。プライバシー確保だけでなく感染症対策の観点でも、紙管ユニット(Paper Partition System、以下PPS)の必要性を感じ、すぐに支援しようと思った」と坂氏は言う。
PPSとは坂氏が考案した、紙管の間仕切りシステムだ。これまで東日本大震災や熊本地震、九州を襲った「令和2年7月豪雨」の避難所などで数多く提供されてきた。
今回の支援ではまず、ポーランドの建築家Hubert Trammer氏たちと共にチームを立ち上げた。坂氏とは、欧州委員会委員長のイニシアチブで設立された「New European Bauhaus」で共に委員を務めていた間柄だ。その他、坂氏の元教え子であるJerzy Latka氏がポーランドのブロツワフ工科大学で教壇に立っていたこともあり、同大学の建築学科生たちがチームに参加した。
「現在、PPSを使ってトンガの噴火・津波、米国ケンタッキー州の竜巻、ハイチ地震の被災地でも同時に支援をしている。そうした活動が国内外のメディアに多く取り上げられ、認知も広がってきたため、今回のウクライナ難民支援でも話がスムーズに進んだ。チームも思っていたよりすぐに発足できた」(坂氏)
紙管はポーランドの工場で製造されたものを提供してもらった。PPSは1ユニットの大きさが2.3m×3m、梁(はり)までの高さが約2mだ。現地の折り畳みベッドが大きかったため、日本で使用したときよりも梁の長さを20cm長くした。紙管同士の組み立て方などは、基本的に過去のPPSと変わらない。坂氏がポーランド入りするまでに、Latka氏やその学生たちが先にプロトタイプをつくり、確認した。