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 特定の場所の戦争や自然災害の記憶などを継承し、Web上のデジタル地球儀にマッピングする「多元的デジタルアーカイブズ」の活動で知られる東京大学大学院情報学環・学際情報学府の渡邉英徳教授。ロシア軍がウクライナ侵攻を開始した2022年2月、「ウクライナ衛星画像マップ」を即座に立ち上げた。現在進行中の事態を記録する新たな取り組みについて聞いた。

2022年2月25日に開始したアーカイブ活動「ウクライナ衛星画像マップ」。現在、マリウポリなど都市別に整理したアーカイブも公開している。また、破壊された建物などの3Dモデルも収録している(資料:Satellite Images Map of Ukraine)
2022年2月25日に開始したアーカイブ活動「ウクライナ衛星画像マップ」。現在、マリウポリなど都市別に整理したアーカイブも公開している。また、破壊された建物などの3Dモデルも収録している(資料:Satellite Images Map of Ukraine)
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東京大学大学院情報学環・学際情報学府の渡邉英徳教授。1974年生まれ。東京理科大学理工学部建築学科卒業、筑波大学大学院システム情報工学研究科修了。ソニー・コンピュータエンタテインメント、首都大学東京システムデザイン学部准教授を経て、2018年より現職。著書に『データを紡いで社会につなぐ』、『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(共著)などがある(写真:日経クロステック)
東京大学大学院情報学環・学際情報学府の渡邉英徳教授。1974年生まれ。東京理科大学理工学部建築学科卒業、筑波大学大学院システム情報工学研究科修了。ソニー・コンピュータエンタテインメント、首都大学東京システムデザイン学部准教授を経て、2018年より現職。著書に『データを紡いで社会につなぐ』、『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(共著)などがある(写真:日経クロステック)
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渡邉さんは現在、情報デザインを研究する立場から、ロシアによるウクライナ侵攻の推移をWeb上にアーカイブし、可視化する取り組みを続けています。着手したきっかけを教えてください。

渡邉 地理情報システムの専門家で、これまでにも協働している古橋大地さん(青山学院大学地球社会共生学部教授)が2022年2月25日の昼、ウクライナの空軍基地を上空から写した衛星画像をツイッター(Twitter)に投稿しました。場所を特定して地図上に重ね合わせるジオリファレンスを独自に行って投稿したものです。

 それでは僕が3Dマッピングを進めますという感じで、30分後にはWeb上のデジタルアース(デジタル地球儀)の1つである「セジウム(Cesium)」にマッピングし、古橋さんのツイートにリプライする格好で投稿しました。ちょうど自分も何かできないかなと考えていたところで、即座に反応したわけです。

 元の画像は、地球観測衛星を用いて衛星画像サービスを展開する米プラネット・ラボ(Planet Labs)が前日、つまりロシア軍が侵攻を開始した2月24日に撮影して配信したものです。同社がクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを設定して公開したので、その規約にのっとって使っています。

 オープンに配信される画像データには位置情報が付けられていないので、古橋さんがジオリファレンスを行ったということです。その際に生成したKMZファイル(注1)を公開しているので、僕は、そのファイルをカスタマイズしてマッピングに用いました。以後、同様の流れで共同作業を継続しています。

注1:3D地理空間情報の表示・管理のために「XML」で記述した「KML」ファイルを圧縮したファイル形式。グーグルアース(Google Earth)にマッピングする場合も同形式を用いる。

ウクライナ衛星画像マップより。ウクライナ南東部マリウポリ近郊、新たに確認された集団墓地。4月3日の画像で、3月23日の同地点の画像には存在しない(資料:Satellite Images Map of Ukraine)
ウクライナ衛星画像マップより。ウクライナ南東部マリウポリ近郊、新たに確認された集団墓地。4月3日の画像で、3月23日の同地点の画像には存在しない(資料:Satellite Images Map of Ukraine)
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ウクライナ衛星画像マップより。ウクライナ南東部マリウポリ、港湾部および市街地の様子。4月9日の画像(資料:Satellite Images Map of Ukraine)
ウクライナ衛星画像マップより。ウクライナ南東部マリウポリ、港湾部および市街地の様子。4月9日の画像(資料:Satellite Images Map of Ukraine)
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ウクライナ衛星画像マップより。1つ上に掲載している画像のビューからCesiumのナビゲート機能で視点と角度を変えてみると、集団墓地(画面左下)とマリウポリ港湾部(同右上)の位置関係が分かる(資料:Satellite Images Map of Ukraine)
ウクライナ衛星画像マップより。1つ上に掲載している画像のビューからCesiumのナビゲート機能で視点と角度を変えてみると、集団墓地(画面左下)とマリウポリ港湾部(同右上)の位置関係が分かる(資料:Satellite Images Map of Ukraine)
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古橋さんの研究室との共同作業として継続している「ウクライナ衛星画像マップ(Satellite Images Map of Ukraine)」の素材の出典を見ると、米国の宇宙技術会社であるマクサー・テクノロジーズ(Maxar Technologies)や衛星運用会社のブラックスカイ(BlackSky)が公開してきた画像を用いているのですね。

渡邉 Maxarの画像はCNNやロイター経由、あるいはSNS(交流サイト)で発信されているものを入手し、クレジットを表記して用いています。BlackSkyは、僕らの活動を見て、まとめて画像を提供したいという打診があったものです。

 各社が配信する画像には、地名などは付けられていますが、詳細な位置情報は付けられていません。記事化するうえで見やすくなるように、方位の回転やトリミングが施された画像もあります。そのため、僕や古橋さん、双方の研究室の大学院生がチームを組み、毎日ネットをサーベイしながらマッピング素材を選び、ジオリファレンスを続けています。周囲に写っているインフラや特徴的な施設、影の方向などを手掛かりに地図上に重ねる作業となります。