特定の場所の戦争や自然災害の記憶などを継承し、Web上のデジタル地球儀にマッピングする「多元的デジタルアーカイブズ」の活動で知られる東京大学大学院情報学環・学際情報学府の渡邉英徳教授。ロシア軍がウクライナ侵攻を開始した2022年2月、「ウクライナ衛星画像マップ」を即座に立ち上げた。現在進行中の事態を記録する新たな取り組みについて聞いた。
渡邉さんは現在、情報デザインを研究する立場から、ロシアによるウクライナ侵攻の推移をWeb上にアーカイブし、可視化する取り組みを続けています。着手したきっかけを教えてください。
渡邉 地理情報システムの専門家で、これまでにも協働している古橋大地さん(青山学院大学地球社会共生学部教授)が2022年2月25日の昼、ウクライナの空軍基地を上空から写した衛星画像をツイッター(Twitter)に投稿しました。場所を特定して地図上に重ね合わせるジオリファレンスを独自に行って投稿したものです。
それでは僕が3Dマッピングを進めますという感じで、30分後にはWeb上のデジタルアース(デジタル地球儀)の1つである「セジウム(Cesium)」にマッピングし、古橋さんのツイートにリプライする格好で投稿しました。ちょうど自分も何かできないかなと考えていたところで、即座に反応したわけです。
元の画像は、地球観測衛星を用いて衛星画像サービスを展開する米プラネット・ラボ(Planet Labs)が前日、つまりロシア軍が侵攻を開始した2月24日に撮影して配信したものです。同社がクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを設定して公開したので、その規約にのっとって使っています。
オープンに配信される画像データには位置情報が付けられていないので、古橋さんがジオリファレンスを行ったということです。その際に生成したKMZファイル(注1)を公開しているので、僕は、そのファイルをカスタマイズしてマッピングに用いました。以後、同様の流れで共同作業を継続しています。
注1:3D地理空間情報の表示・管理のために「XML」で記述した「KML」ファイルを圧縮したファイル形式。グーグルアース(Google Earth)にマッピングする場合も同形式を用いる。
古橋さんの研究室との共同作業として継続している「ウクライナ衛星画像マップ(Satellite Images Map of Ukraine)」の素材の出典を見ると、米国の宇宙技術会社であるマクサー・テクノロジーズ(Maxar Technologies)や衛星運用会社のブラックスカイ(BlackSky)が公開してきた画像を用いているのですね。
渡邉 Maxarの画像はCNNやロイター経由、あるいはSNS(交流サイト)で発信されているものを入手し、クレジットを表記して用いています。BlackSkyは、僕らの活動を見て、まとめて画像を提供したいという打診があったものです。
各社が配信する画像には、地名などは付けられていますが、詳細な位置情報は付けられていません。記事化するうえで見やすくなるように、方位の回転やトリミングが施された画像もあります。そのため、僕や古橋さん、双方の研究室の大学院生がチームを組み、毎日ネットをサーベイしながらマッピング素材を選び、ジオリファレンスを続けています。周囲に写っているインフラや特徴的な施設、影の方向などを手掛かりに地図上に重ねる作業となります。