リアルタイムで進行する出来事を追いかけながら発信
渡邉 チームとしてジオリファレンスの作業には慣れてきましたが、1点に30分くらいかかる場合もあります。とはいえ、訪れたことのない土地で起こっている事態ですから、地理的な関係や空間環境の文脈を、手作業を通じて感じ取っていくプロセス自体に大きな意義があると考えています。
個別の地名で済ませず、全土を見渡し、地形や国境、幹線道路、港湾などとの位置関係を把握していきます。点が線、線が面になり、起こっている事態を複合的に読み解く知識と目が養われます。その場所に詳しくなり、戦況の推移に対する理解度も深まります。
そうやってマッピングした衛星画像は現在(4月中旬時点)、百数十点に及んでいます。
「多元的デジタルアーカイブズ」と名付けられた渡邉さんの取り組みは、戦争や自然災害の悲劇を扱ったものがよく知られています。長崎、広島の原爆被害の実相を伝える「ナガサキ・アーカイブ」(2010年)、「ヒロシマ・アーカイブ」(11年)、戦地となった場所を題材とする「沖縄平和学習アーカイブ」(12年)、「パールハーバー・アーカイブ」(16年)、被災者のコメントを収録した「東日本大震災アーカイブ」(11年)などがありますね。
渡邉 かつての出来事や過去の記憶を今の時代につなげるという観点の取り組みが多いと思います。最近では、AI(人工知能)技術を活用し、過去の資料や戦争体験者に対するヒアリングを基に戦前・戦後や戦時の白黒写真をカラー化する「記憶の解凍」プロジェクト(庭田杏珠氏との協働)があります。これも同様の趣旨の活動です。
東日本大震災のアーカイブの場合は、少し事情が異なります。僕自身は東北の被災者ではありませんが、同時代的に起こった出来事を自分ごととして捉えて自らアーカイブしてきました。「『忘れない』震災犠牲者の行動記録」(2016年)、「東日本大震災ツイートマッピング」(21年)など、年を経るごとに最新のデータと表現手法を組み合わせ、アプローチしています。
戦争と自然災害を簡単にひとくくりにはできません。ただし、リアルタイムで進行する出来事を追いかけながら発信していくという点では、ウクライナ侵攻のアーカイブは、震災時の取り組みに近いように感じます。今はまだ、日本に住む我が身に危険が及んでいる状況ではありませんが、ウクライナで起こっていることは、僕らの身の回りと地続きの出来事であるという認識の下、活動しています。
(中編に続く)