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市民団体が樹木保全を求める陳情書

 小池都知事の要請では、事業者に対して「都民参画」を求めている。事業の見直しを求める市民団体などにとっては歓迎すべき内容のはずだが、この要請に対する視線は厳しい。

 要請に先立って、市民団体の「神宮外苑を守る有志ネット」事務局の西川直子氏らは「神宮外苑の歴史的景観と環境の保全に関する陳情」を作成し、4337人分の署名を22年5月20日に都議会に提出している。陳情書では、樹木をはじめとする神宮外苑エリアの環境の保全や、再開発事業に対する疑問への丁寧な対応を求めた。

 しかし、小池都知事が要請を出した翌日の5月27日に都議会都市整備委員会で行われた陳情審査では、都知事が特別顧問を務める都民ファーストの会の議員を含む多数が反対し、陳情は不採択となった。

 陳情者の1人である角井典子氏は5月31日に開いた会見で、「知事の要請文は現状の計画を極力変えずに、部分的な調整で切り抜けたいという苦肉の策だ。早く環境アセスを総括し、現状の計画のまま次の日程に進めたいという意図を感じる」と批判した。

「神宮外苑の歴史的景観と環境の保全に関する陳情書」を作成し、4337人分の署名を都に提出した有志グループ。22年5月31日に東京都庁で会見を開いた。中央が西川直子氏、その右側が角井典子氏(写真:日経クロステック)
「神宮外苑の歴史的景観と環境の保全に関する陳情書」を作成し、4337人分の署名を都に提出した有志グループ。22年5月31日に東京都庁で会見を開いた。中央が西川直子氏、その右側が角井典子氏(写真:日経クロステック)
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 その後も別の都民グループが、樹木伐採と再開発事業の見直しを訴える署名活動を続けている。6月2日は米国人コンサルタントのロッシェル・カップ氏が8万1422人分、6月6日には楠本夏花氏ら大学生グループが1万436人分の署名を都に手渡した。

 上述の通り、小池都知事は事業者に対する要請で「幅広い都民参画」を求めた。しかし、具体的な方法などは示しておらず、見直しを求める都民グループと事業者の間で「参画」の在り方を巡る対立が生じている。

 事業者の三井不動産が現段階で示している方法は、「植樹など都民の思いを表すことができる取り組み」だ。一方、事業の見直しを求める都民グループは、計画づくりを議論する場への参画を求めている。カップ氏は、「植樹のような表面的な参画では意味がない。知事の呼びかけで、事業者、都市計画や環境問題の専門家、都民を集めてオープンな協議の場をつくってほしい」と訴える。

 5回目の環境影響評価審議会でも、複数の委員が「都民の参画が必要」との意見を事業者に示した。部会長の斎藤利晃・日本大学教授も「新築する建物が既存樹木に与える影響調査に都民が参加できるようにして、事業の透明性と理解を求めてはどうか」と提案しており、事業者に対して一歩踏み込んだ「都民参画」を求める声が強まっている。

22年6月2日に8万1422人分のオンライン署名を東京都に提出した後、東京都庁で記者会見を開いたロッシェル・カップ氏。同氏は3月2日にも神宮外苑地区の再開発計画の見直しを求める署名と要望書を都に提出している(写真:Change.org Japan)
22年6月2日に8万1422人分のオンライン署名を東京都に提出した後、東京都庁で記者会見を開いたロッシェル・カップ氏。同氏は3月2日にも神宮外苑地区の再開発計画の見直しを求める署名と要望書を都に提出している(写真:Change.org Japan)
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