「国民からの献金、献木などで造営された外苑の成り立ちを踏まえ、再整備に当たっても、幅広い都民参画に取り組むこと」。これは、東京都の小池百合子知事が2022年5月26日に「(仮称)神宮外苑地区市街地再開発事業」の事業者に出した要請の一文だ。
三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事の4者が進めている「(仮称)神宮外苑地区市街地再開発事業」については、樹木の伐採を巡って東京都の環境影響評価(環境アセスメント)が長引いている。審議の途中で都知事が事業者に対して要請を出すのも異例のことだ。
小池都知事が要請を出す数時間前のこと。環境影響評価に関する5回目の審議会で、総括審議の結論が持ち越されるという事態が発生した。
本来であれば同日中に結論を出し、知事に答申する予定だったとみられる。ところが、複数の委員から伐採・移植する既存樹木について「1本ごとの検討が必要であり、毎木調査をしているのに資料を出していないのであれば、審議はできない」「外苑のシンボルであるイチョウ並木に対して、近傍で行われる神宮球場の工事がもたらす環境影響を判断できる具体的な情報が出ていない」などと指摘が相次いだのだ。次回の開催日は6月20日時点で未定。事業に待ったがかかっている。
小池都知事は5回目の環境影響評価審議会について翌日の定例記者会見で、「必要な資料をしっかり(審議会に)提出し、真摯に対応するよう事業者に求めている」と話した。
神宮外苑の再開発事業では、明治神宮野球場と秩父宮ラグビー場を既存の施設と異なる位置で建て替えるとともに、高層ビル3棟を新築する。三井不動産の発表資料によると、敷地面積は約28.4ha。全体の竣工は36年の予定だ。事業者は22年5月26日時点で、工事の支障となる既存樹木を、環境アセスメントの対象地区内だけで760本以上、伐採もしくは移植する計画を示している。
事業者が伐採・移植すると説明している樹木の多くは、大正時代に国民が献木や献金をして植えられたもので、1926年の創建時の設計思想に基づく景観を形成している。樹齢100年を超える大木も少なくない。そのため、一部の都民や専門家などから事業の見直しを求める声が上がっていた。