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 筑波大学准教授やメディアアーティストとして活動する落合陽一氏が代表取締役CEO(最高経営責任者)を務めるピクシーダストテクノロジーズ(東京・千代田、以下PxDT)。空間にまつわる課題を解決する「ワークスペース領域」などで事業を展開する、2017年設立のベンチャー企業だ。鹿島やイトーキ、東京建物など、建設・不動産関連企業との協業も多い。多忙で知られる落合CEOに、会社のかじ取りや建設会社との取り組みなどについて聞いた。(聞き手は木村 駿=日経クロステック/日経アーキテクチュア)

ピクシーダストテクノロジーズの落合陽一CEO。筑波大学准教授やメディアアーティストなど、様々な肩書を持つ。視・聴・触覚提示法、デジタルファブリケーションなどが専門(写真:北山 宏一)
ピクシーダストテクノロジーズの落合陽一CEO。筑波大学准教授やメディアアーティストなど、様々な肩書を持つ。視・聴・触覚提示法、デジタルファブリケーションなどが専門(写真:北山 宏一)
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会社は順調に成長していますか。

 業績は問題なく伸びています(編集部注:PxDTの20年度の売上高は約4億9000万円。17年度は約1100万円だった)。ただ、我々は開発のための投資にかなりお金を使っていますので。

まだ利益を出す段階ではないと。

 そうですね。利益を出すのはもっと先でいい。今の段階で利益を出そうとすると、小さなビジネスになってしまいます。我々の投資家は、それを期待していませんから。

19年には38億円超もの資金を調達して話題になりましたが、今後のご予定は。

 はい、また調達していきたいと思っています。

調達額は次も大きくなりそうですか。

 そのあたりは、ノーコメントで。

研究者として、あるいはメディアアーティストとして様々な活動をされている落合さんですが、会社を立ち上げたきっかけを改めて教えてください。

 きっかけとなった出来事などは特にありませんが、モチベーションは常にありました。日本の研究開発をなんとかしたいとか。例えば、今、僕の目の前にあるMacのディスプレーには、日本製のアプリは1つもありませんよ。スマホもそう。普段持ち歩くもの、使うものは、ほとんど日本製ではなくなってしまいました。そんな状況を考えたときに、稼ぎ頭になれるようなことをしないといけないと思い、会社を始めた面はあります。

「自分がやらなきゃいけない」と思ったわけですね。

 僕だけではなく、みんながやるようになればいいですよね。

数年前と比べて、状況は変わってきましたか。

 我々の会社は成長したけれど、残念ながら日本の状況は変わっていませんね。驚くべきことです。ただし、良くなったこともあります。例えば、大学で博士課程を修了した学生が起業を選ぶということが、普通のスタンスになってきました。あとは、ビジョンを持って何かをやっていこうという人が増えたのではないでしょうか。

多忙ななかで、どのように会社のかじ取りをしていますか。

 朝はだいたい午前6時ごろから活動を始めて、午前中は会社の仕事をしていることが多いかな。会社の1つ目のミーティングが、午前8時、9時ごろに始まるので。取締役会なども朝ですね。午後は大学の仕事をしていることが多く、夜は作家活動。その後は残ったタスクをひたすら消化しています。秘書さんとしては午前4時ぐらいまで仕事をしてほしいようですが、午前2時ごろには眠ってしまうこともあります。

 きっと世間の人が思っているよりも、僕はCEOとして会社に関わっているのですが、「それっぽくない」といえば、そうなのかとも。フィジカルに会社の人と会うことは、少ないかもしれません。研究室の学生とも、実験をするときなどを除けば、直接は会わないことが多いので。その代わりに、いろんなオンラインのツールに出没しています。

人材採用については、どの程度関わっていますか。

 採用には力を入れており、僕は面接には必ず出るようにしています。面白くない人、こだわりがなさそうな人は採りません。

「こだわり」ですか。

 面接で「あなたが今から1時間ぐらい語れることは何ですか」と質問して「これといってありません」といった答えが返ってくると、がっかりしますね。うちは厳しいですよ。自分で仕事ができる人しか採用しません。自分のプロフェッショナリティー(専門性)に対しては、自分1人で仕事ができるのが当たり前だと、僕は思っています。