大林組は東京都清瀬市にある同社の技術研究所内に、セメント系建設3Dプリンターを用いて延べ面積27.09m2、最高高さ4.04mの平屋建ての施設を「印刷」する。国土交通大臣認定を取得して3Dプリンターで建築物を建てる事例としては国内初。2022年5月に着工しており、同年11月ごろの完成を目指す。
セメント系建設3Dプリンターは、特殊なモルタルをノズルから吐出して積層し、構造物を造形する技術。大林組は、産業用ロボットアームをベースに自社製作したプリンターを現地に据え付け、基礎と天井を除いて現場でじかに造形する「オンサイトプリンティング」に挑戦する。
造形する施設の名称は「(仮称)3Dプリンター実証棟」(以下、実証棟)。材料の使用量を最小限に抑えつつ、最大限の空間を確保できる形状とした。型枠を使用する在来工法では表現しづらい3次元曲面を多用したのが特徴だ。実証棟には空調や洗面、照明などの設備も設ける。
3Dプリンターで造形する壁は、室外側の構造体層、中央の断熱層、室内側の設備層(ケーブル保護層や空調ダクト層)から成る複層構造とした。デンカが開発した3Dプリンター用の特殊モルタル「デンカプリンタル」を用いて各層の枠を造形し、構造体層には大林組が開発した超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート」を充填する。鉄筋は打ち継ぎ目以外には使用しない。
施工時はプリンターを室内側の中央付近に据え付け、事前に打設しておいた基礎の上に壁の枠を造形していく。造形しながらスリムクリートの打設や断熱材の充填、設備工事を進めるので、工期短縮や省人化が可能だ。
現場は4~5人程度の体制で、うち1人が打設した壁への削孔や断熱材充填など複数の役割をこなす。意匠設計を担当した大林組設計本部設計ソリューション部の木村達治課長は、「3Dプリンターで造形する建築物に設備配管や配線を施工するノウハウは確立されていないので、実証棟で検証したい」と意気込む。
天井には、研究所内の別の場所でプリントした床版を架ける。天井の施工後は、3Dプリンターを屋上階へ盛り替え、パラペットを造形する。このパラペットは、2階の立ち上がり壁を模したもの。実証棟は平屋建てだが、技術的には複数階を建築できることを示す狙いがある。
構造体には指定建築材料に該当しないスリムクリートなどを用いたため、建築確認を受けるには国土交通大臣認定を取得する必要があった。