解体中の超高層ビルの最上階。コンクリート製のスラブをブロック状に切断していく。切断作業が終わると、下の階では支保工の撤去作業が始まる。支保工を撤去してもスラブが落ちないのは、周辺のスラブで切断部分を支えているからだ。切断したスラブは、順次、タワークレーンで揚重し、建物内部に開けた巨大な穴を通して地上に下ろしていく。並行して、下の階ではスラブ切断作業の準備が進む──。
「鹿島スラッシュカット工法」は、断面が斜めになるように切断したスラブを周囲のスラブで落ちないように支える新工法だ。支保工を早期に撤去できるので工期を短縮できる。鹿島はこの工法を、東京・浜松町の「世界貿易センタービルディング」に導入。2022年7月13日、解体工事現場を報道陣に公開した。
世界貿易センタービルは地上40階、地下3階建てで、地上3階から上部が鉄骨造の超高層ビルだ。高さは162mで、1970年の竣工時点では「霞が関ビルディング」(1968年竣工、高さ147m)を抜いて日本一の高さだった。新築時の元施工を担当した鹿島が、解体工事も手掛ける。浜松町エリアの再開発事業に向けて同社は2021年8月、世界貿易センタービルの解体工事に着手した。23年3月に完了する予定だ。
スラッシュカット工法による解体は次のような手順で進めている。
まずはスラブを大割のブロックに切断。今回の現場では1フロア当たり32ピースを切り出す。次に、鋼製の大梁や柱などを溶断する。これらの解体材は、順次、タワークレーンで地上に下ろす。その後、大型重機で小割ヤードに運び、コンクリートと金属に分別する。2500m2の1フロアの解体を5日間で完了する。
「一般的な解体工法に比べて1フロア当たり2日、全体で1割ほど工期を短縮できる」と鹿島浜松町駅西口開発計画工事事務所の清水基博副所長は話す。
工期短縮を可能にしたのは、同社が新たに開発した「斜め切断カッター」だ。この機械で30度の傾斜を付けてスラブをカットする。切断したスラブを隣接するスラブで支えることで、吊(つ)り下ろす前に支保工を撤去できるようにした。
清水副所長は、「従来は切断したスラブを揚重するまで階下の支保工を取り外せなかった。スラッシュカット工法では、上層階のスラブ吊り下ろし作業と下層階のスラブ切断作業を並行して進められる分、工期を短縮できる」と話す。
このほか解体材の揚重にも同社が開発した技術を活用して作業効率を高めている。「スラブ切断兼吊り上げ治具」は、スラブの切断時には荷重を受け、揚重時には曲げ破壊を防ぐ装置だ。この治具を用いることで、スラブの割り付けをできる限り大きくして揚重回数を減らす。
「4点自動吊り上げ装置」は、遠隔操作で解体材を水平な状態に調整する技術だ。大割の解体材は重心と中心が一致しないため、揚重時に水平にならない。これを、4本のチェーンの長さを短時間で調節して水平にする。解体材を安全な姿勢で着地させられるため搬出作業の時間を短縮できる。遠隔で操作できるので高所作業の低減にもつながる。
清水副所長は、「スラッシュカット工法は工期を短縮できるため労務費を抑えられる。工事費は一般的な解体工法に比べても遜色ない」と説明する。
スラッシュカット工法には工期を短縮する以外のメリットもある。