「ここまでゼネコンから契約を取れるとは思っていなかった」。竹中工務店技術本部知的財産部活用展開グループの吉田真悟シニアチーフエキスパートは、うれしい悲鳴を上げる。同社が2019年6月に提供を開始した現場監督向けのクラウドサービス「位置プラス」シリーズは、22年9月中旬時点でスーパーゼネコンを含む28社が導入したヒット作だ。自前主義が根強い建設業界で、ライバルに受け入れられたのはなぜか。その秘密を探る。
建築工事のDX(デジタルトランスフォーメーション)に、位置情報は欠かせない。現場内の資機材や人の位置を把握し、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)モデルと連係させて施工管理を効率化したり、ロボットなどで作業の自動化を進めたりする際に必要になる。
問題は、屋内ではGPS(全地球測位システム)の電波が届かない点。GPSを用いずに位置情報を取得する技術はあるが、使い勝手や費用の面で建設現場のニーズに合致したサービスは見当たらない――。こうした問題意識の下、竹中工務店が開発したのが位置プラスシリーズだ。安価なIoT(モノのインターネット)技術で位置情報を取得する「位置認識プラットフォーム」と、取得した情報を活用して現場監督の仕事を効率化する4つの「業務アプリ」から成る。自社の現場で活用するだけでなく、同業他社にもサービスを提供している。
位置認識プラットフォームは、近距離無線通信のBluetooth(ブルートゥース)で情報を発信するビーコンを、現場の天井に一定の間隔で設置。機材に取り付けたビーコンやスマホなどのモバイル端末を介して位置情報を自動で吸い上げる仕組みだ。どのビーコンに近いかを電波の強度で判定し、資機材や人の位置を特定する。スマホを使用する場合、無料の「位置プラスBase」をGoogle PlayやApp Storeから端末にインストールする。
ビーコンには、単3電池2本で2年ほど動く、1個当たり3000~4000円程度の安価な製品を採用。設置数は50m角のエリアに1個程度なので、導入コストを低く抑えられる。かなり大まかな位置しか分からないため、一見すると物足りなく感じるが、吉田シニアチーフエキスパートは「実は、現場にしてみれば『エリア内のどこかにあることが分かる』程度で十分。精度よりも安さや手軽さが重要だ」と説明する。
なぜ、大まかな位置情報で十分なのか。その理由の説明も兼ねて、位置認識プラットフォームで取得したデータを活用する業務アプリ「高車管理」について詳しく見ていこう。