九州大学の建築研究教育センター「BeCAT(ビーキャット)」が、初の社会実装プロジェクトを完成させた。教員の指導のもとに大学院生が設計し、JR九州住宅(福岡市)が実際に建設、販売する環境住宅だ。2022年10月1日に開催された完成見学会での報告に基づき、「BeCAT」が目指すものと、第1号プロジェクトについて前編・後編にわたってリポートする。
重松象平、末廣香織、末光弘和の3氏が率いる
「BeCAT」とは「Built Environment Center with Art & Technology」の略称。九州大学の人間環境学府、総合理工学府、芸術工学府の建築系3部局を横断し、2021年4月に発足した。九州大学大学院教授でOMA(オランダ・ロッテルダム)パートナーの重松象平氏がセンター長に就任し、同教授でNKS2アーキテクツ(福岡市)共同主宰の末廣香織氏が副センター長、同准教授でSUEP.(東京・世田谷)共同主宰の末光弘和氏がデザインラボ長を務める。
「BeCAT」が目指すのは、デザインとエンジニアリングを融合し、アジア・オセアニア地域における環境建築のプロトタイプを構想することだ。重松氏は見学会のあいさつで「大学を地域に開き、社会との関わりを増やすことで、建築家の社会的な役割を果たしていきたい」と語った。
次いで説明に立った末廣氏は「これまでの環境住宅は、北欧などの高緯度地域を中心に研究や実践が行われてきた」と解説。「九州のような温暖で湿潤な地域における環境住宅の研究はまだあまり進んでいないので、そこに焦点を当てたい。近年、デジタル技術を駆使した精緻な環境シミュレーションが可能になっており、大学院における研究の蓄積が社会に応用できるだろう。一口に建築といっても、都市計画や建築設計、環境、構造、防災など、扱う範囲は幅広い。分野を横断して、都市や建築が抱える課題に取り組んでいく」(同氏)