中外製薬は2022年10月15日、新たな研究拠点である「中外ライフサイエンスパーク横浜」の竣工を迎えた。静岡県御殿場市と神奈川県鎌倉市にある2つの研究施設を1カ所に集約して、創薬研究の機能強化を図る狙いだ。10月20日に報道機関向けの見学会が開催されたので、竣工したばかりの現場からリポートをお送りする。
敷地は横浜市戸塚区を流れる柏尾川を挟み、東西にまたがる。西側に7棟、東側に9棟の建物が立つ。敷地面積は西側が約7万9700m2、東側が約7万8800m2。各棟の構造は鉄骨造で、階数は地下1階・地上6階建て。延べ面積は約11万9500m2だ。
建設費の詳細は非公表だが、総投資額は約1718億円。うち、工事費、転居費、不動産の取得税を含む建物設備などへの投資は約1288億円になる。設計は日本設計、施工は鹿島が担当した。
日本設計ライフサイエンスプロジェクト部のチーフ・アーキテクトである栗原卓也副部長によれば、中外製薬からの要望は大きく3つのポイントに集約されたという。地域社会との共生、サステナブルな施設の実現、イノベーションを創出する空間だ。「周囲との調和のため、研究や実験といった機能が外観に出ないような仕上げを心掛けた。複数棟ならば、将来、棟ごとに改修できるため、サステナブルな面にも貢献する」(栗原副部長)
ライフサイエンスパークのコンセプトは、「Green Innovation Village~緑の中に点在する、最先端創造研究所」。地域社会との調和や、環境との共存、サステナビリティー(持続可能性)と安全に配慮した最新の研究施設を目指した。
周辺環境との調和を図るため、外観はアースカラーでまとめた。ファサードにはアーキテクチュラルコンクリートと呼ばれるプレキャスト材を採用し、開口率に配慮しながらLow-E複層ガラスと交互に並べた。西側敷地の境界部には延長350m程度の緑道を設けて一般開放する予定だ。緑環境の確保だけでなく、高い保水機能で雨水を一時的に貯留し、浸水対策としても地域貢献を図る。
日本設計建築設計群の藤田雅義チーフ・アーキテクトは「緑道に並ぶ木立の奥に、もう一つ木立が見える姿をイメージし、縦長のファサードを考案した。横長のデザインが一般的な研究施設の存在感を、縦長のデザインとして緩和する狙いもある」と説明する。
見学会の中で中外製薬取締役上席執行役員の板垣利明CFO(最高財務責任者)は、意気込みをこう語った。「設計では大学のキャンパスのような、周囲と調和する外観を意識してもらった。西側の緑道や東側のグラウンド、テニスコートは地域に開放する。革新的な新薬を生み出す施設でありながら、地域に愛される研究施設にしていきたい」