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 大阪・関西万博の開幕まで850日を切った2022年12月中旬時点で、目玉となるテーマ事業を展開する「シグネチャーパビリオン」や会場内の主要施設の工事入札が不落・不調に陥っている。

 2025年日本国際博覧会協会は22年12月12日、会場整備に関する工事などの入札結果を公表。8つのシグネチャーパビリオンのうち、入札を実施した6つのテーマ館全てが「入札者なし」または「予定価格の範囲内での応札者なし」となったことが判明した。

シグネチャーパビリオンと主な会場内施設の工事に関する入札結果。22年12月12日時点(出所:2025年日本国際博覧会協会)
シグネチャーパビリオンと主な会場内施設の工事に関する入札結果。22年12月12日時点(出所:2025年日本国際博覧会協会)
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8つのシグネチャーパビリオンのイメージ。どれも個性的だ(出所:2025年日本国際博覧会協会)
8つのシグネチャーパビリオンのイメージ。どれも個性的だ(出所:2025年日本国際博覧会協会)
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 同じく22年10月末時点で、大催事場は「入札者なし」、迎賓館は「予定価格の範囲内での応札者なし」となっており、同年12月16日には内容を見直して再公告した。大催事場は舞台設備工事を新たに加えて予定価格を前回の約1.5倍の71億1616万1900円に、迎賓館は約1.2倍の34億137万4000円に引き上げた。

 なお、小催事場は内容を見直した再公告を22年10月21日に出しており、鴻池組・安井建築設計事務所・平田晃久建築設計事務所JV(共同企業体)が同年12月9日に落札している。予定価格は1回目の約1.5倍の42億602万4900円、落札価格は38億7900万円だった。

 足元で発生している入札の不落・不調は、資材費の高騰が最大の理由と考えられがちだ。しかし協会側は、22年12月14日の理事会後の会見でその見解を否定した。シグネチャーパビリオンのデザインや設計は22年春に実施されたものであり、少なくとも約半年前の資材高騰分は考慮に入れて予定価格を決めているという。もっとも、直近の実勢価格をどこまで反映したかは不明であり、予定価格見直しの論点の1つになるだろう。

 それよりも、独創的なデザインや設計を採り入れているシグネチャーパビリオンの建設費について、予定価格を決める発注者(テーマ事業プロデューサー)と応札者の間で、設計・施工の難易度や経済性などの評価に食い違いが生じている点が大きい。「両者の理解がすぐに一致するわけではなく、かい離が生じている。それが不落・不調の大きな原因だ」と、協会の石毛博行事務総長は指摘する。

2025年日本国際博覧会協会の十倉雅和会長(左)と石毛博行事務総長。22年12月14日の理事会後に会見に臨んだところ、入札の不落・不調について質問が相次いだ(写真:日経クロステック)
2025年日本国際博覧会協会の十倉雅和会長(左)と石毛博行事務総長。22年12月14日の理事会後に会見に臨んだところ、入札の不落・不調について質問が相次いだ(写真:日経クロステック)
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 どこにかい離があるのか具体的に分析し、予定価格を見直して再公告する。前例がないユニークなパビリオンばかりなので、「1回の公告ですんなり入札者が決まるとは限らない」(石毛事務総長)。

 とはいえ、1~2つのパビリオンで不落・不調だったというならまだしも、6つ全てとなると準備不足や見込み違いは否めないのではないか。通常は1回の入札で大半が決まるはずで、分析して再公告となれば、それだけ時間と労力を無駄に費やすことになる。最終的に工期が短くなれば突貫工事になり、コストが膨らむ。品質や安全性にも影響が出かねない。

 23年4月に予定されている敷地の引き渡しと着工まで、残された時間は少ない。各プロデューサーとディレクター、建築デザインを担当する建築設計事務所などは、パビリオンの規模やデザイン、構造、使用する建材、コンテンツなどを一部見直すことになるかもしれない。「再評価が済んだものから順次、再公告を出していく。22年内にも幾つか出すことになるだろう」(協会の藁田博行整備局長)

 協会の十倉雅和会長は、シグネチャーパビリオンは万博の肝煎り事業であり、「コスト削減を優先して魅力がないパビリオンになるのは避けるべきだ。プロデューサーの思いを形にできなければ意味がない」と話す。万博の会場建設費は1850億円と決まっており、「仮にシグネチャーパビリオンの費用が増えるなら、他のところで節約して全体で帳尻を合わせたい」(十倉会長)。会場建設費の上振れは否定している。

 つまらないパビリオンをつくるつもりはないということだが、経済性も重要なのでなかなか難しい。そもそも万博のパビリオンはユニークで独創的なものだけに、知恵の絞りどころだ。