全1497文字
PR

 文部科学省は国立競技場の運営管理に関する「基本的な考え方」を改定し、2024年度の民営化を目指す方針を22年末に示した。球技専用の施設に改修するとした政府方針を転換し、陸上トラックを存続。民営化後も年間10億円を上限に、運営費を公費で負担する方針も明らかになった。東京五輪のレガシーを巡る議論が再び紛糾しそうだ。

国立競技場を南側から望む(写真:日経クロステック)
国立競技場を南側から望む(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 運営費を負担するのは施設所有者の日本スポーツ振興センター(JSC)。事業者の公募に向けた運営事業の実施方針(案)の中で示した。JSCは、施設の運営権を民間事業者に売却して効率的な運営を図るコンセッション(公共施設等運営権)方式の導入を検討しており、22年度中に関心を持つ事業者から意見を募る。23年度には公募を開始する予定だ。

 国立競技場の維持管理費は、運営収入を上回っており、差額(不足分)を国が穴埋めしているのが実情だ。竣工年の19年度から22年度までに公費で負担したのは計56億円に上る。会計検査院が22年12月21日付の報告でこうした実態について指摘し、文科省およびJSCに「民営化に向け事業スキームの検討を遅滞なく進めていくこと」を求めた。

国立競技場竣工後の2019~22年度に国が予算措置した維持管理費。22年度からは土地賃借料も計上した。21年度までは、国立競技場の敷地の一部を所有する東京都、新宿区、渋谷区と貸借料を無償とする契約を結んでいた(出所:会計検査院)
国立競技場竣工後の2019~22年度に国が予算措置した維持管理費。22年度からは土地賃借料も計上した。21年度までは、国立競技場の敷地の一部を所有する東京都、新宿区、渋谷区と貸借料を無償とする契約を結んでいた(出所:会計検査院)
[画像のクリックで拡大表示]

 スポーツ庁政策課の大西啓介課長は、「指摘を真摯に受け止め、民営化に向けて尽力する」と話す。民営化後も公費負担する方針について、大西課長は「民間事業者の参入を促す狙いがある。22年度の運営状況から、公費負担は10億円程度まで圧縮できる見込みが立ったため、この額を目安とした。さらに費用を圧縮するような提案に期待したい」と説明する。

 他の競技場で維持管理に投入される公費はどの程度なのか。東京五輪でサッカー競技の会場となった「日産スタジアム」(横浜市)には、立地する新横浜公園全体に年間約7億円の指定管理料が横浜市から支払われている(屋内プールや補助競技場など含む)。19年のラグビーW杯で使用した「エコパスタジアム」(静岡県袋井市)を含む小笠山総合運動公園には、同じく静岡県から年間約6億円。単純比較はできないが、国立競技場の維持に投じられる公費はかなり大きい。

球技・陸上競技・イベント活用など多目的利用が可能なスタジアムで、比較的規模が大きい施設の指定管理料を整理した。国立競技場の情報についても参考までに示した(出所:取材を基に日経クロステックが作成)
球技・陸上競技・イベント活用など多目的利用が可能なスタジアムで、比較的規模が大きい施設の指定管理料を整理した。国立競技場の情報についても参考までに示した(出所:取材を基に日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 スポーツ庁政策課の瀬倉信康課長補佐は、国立競技場の整備費や運営費などに対する視線は依然として厳しく、負の遺産であるとの指摘も根強いと認める。一方で、「22年10月のラグビーW杯では約6万5000人、23年1月の全国高校サッカー選手権大会の決勝戦では5万人を超える入場者数を記録した。集客のポテンシャルは高い」と期待を寄せる。