建物に一度使った木材の「後利用」──。夏季五輪・パラリンピックで史上初の1年延期となった東京大会が掲げていた、施設関連のテーマの1つだ。同大会が2021年9月に閉幕して1年半が経過した。全国の自治体が大会施設のために提供した木材を引き取って再利用する「日本の木材活用リレー ~みんなで作る選手村ビレッジプラザ~」と名付けられた取り組みは、現在も続いている。
東京五輪のために建設された多くの施設のうち、閉幕直後に解体されたのが木造平屋建ての「選手村ビレッジプラザ」だ。加工済みの材木を全国63自治体から無償で集めて建設し、閉幕後に解体してほぼ元の材木のまま返却。この「レガシー材」の再利用を各自治体が進めているところだ。
日建設計が設計を開始したのは16年11月。木材活用リレーへの対応は設計の途中段階から始まった。当初の条件はローコストの木造建築というもので、部材の再利用は考慮していなかった。ところが17年3月に、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(22年6月に解散。以下、組織委員会)より、材木を全国から借りて返せる形で設計するようにと条件の追加がなされたのだ。
日建設計は、主に2つの課題に直面した。まず、全国のどんな自治体でも無理なく提供できる材木を前提に設計する必要がある。また、解体時に材木を傷付けずに済む設計にしなければならない。
そこで、デジタルツールを駆使して合理的な架構を考え抜き、使用する材木の寸法などを絞り込んだ。さらに、解体が容易で、かつ施工時の加工が最小限となる接合方法を開発した。建設から解体後の返却までを合理的に進めるため、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)をフル活用して63自治体から支給される材木を管理した。
選手村ビレッジプラザは、5棟から成る。それぞれ木造、地上1階建てで、高さは約7m。総延べ面積約5300m2の建物に使用した材木は約4万本、1300m3に上る。東京五輪・パラリンピックの選手団の生活を支える施設として建設された。
組織委員会は材木の提供を募集する際に、レガシー材を再利用することを条件の1つとしていた。再利用の仕方は自治体の自由だが、営利目的や、民間施設への利用は禁じている。21年11月から解体後の材木返却を開始。返却する材木には、東京五輪で使用されたことを示す刻印を押した。
材木の提供や、返却を受け付ける窓口になったのは、自治体の森林や林業に関連する部署だ。一方、建物への利用や什器(じゅうき)の製作、設置などに関わるのは、各施設の担当部局。それら部局間の調整が必要となるのが、こうしたプロジェクトの難しいところだ。また、一度建物として使用された材木は返却されてみないとどのような状態で、どれだけ再利用できるか分からない。割れが生じていたり、ビス穴が開いていたりする可能性がある。
選手村ビレッジプラザの設計を担当し、現在は日建設計の新領域開拓部門新領域ラボグループでNWL(Nikken Wood Lab)ラボリーダーを務める大庭拓也氏は「JAS材およびJAS材同等材を加工したものを提供してもらった。しかし、これらは切削や穴開けなどの加工を追加した時点でJAS材ではなくなる。改めて建物の構造部材などに使うには、再試験などでJAS材と同等であると証明しなければならない」と、現状の課題を指摘する。このため、非建築用途での再利用が主になることは予想していた。