全国自治体から材木を集めて大会施設を建設し、さらに返却して再利用を図る「五輪レガシー」をテーマとするプロジェクトが現在も続いている。2021年開催の東京五輪・パラリンピックのために建てられた「選手村ビレッジプラザ」を対象とする取り組みだ。
ビレッジプラザは、木造の仮設建築物として20年4月に竣工。発注者である東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(22年6月に解散。以下、組織委員会)は、全国の自治体に同施設の主要構造材である材木の提供を求め、閉幕後に返却する形で建設コストを抑えた。使用部材に制約が生じ、かつ、できるだけ材木を傷つけないように建設・解体する必要がある難しいプロジェクトを成し遂げたのは日建設計と熊谷組、住友林業だ。
新型コロナウイルス感染症の影響で大会は1年延期となった。ビレッジプラザが役目を終えたのは21年9月で、閉幕直後に解体が始まった。22年3月までに、材木を提供した63の自治体へ返すための搬出が完了した。
組織委員会は、「レガシー材」として再利用することを条件に材木提供を募集。ビレッジプラザで使った材木は、できるだけ元の形のまま返却した。林野庁も協力し、「日本の木材活用リレー ~みんなで作る選手村ビレッジプラザ~」と名付けてプロジェクトを推進した。しかし、組織委員会が解散したため、材木を提供した全63自治体の「後利用」状況を把握している団体や機関などはない。日経クロステックが取材した一部自治体の再利用事例に関しては既報している(下記)。
設計から返却まで一貫して材木を管理するには、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)のインフォメーションに何を登録するかをあらかじめ見極める必要がある。日建設計BIMマネジメント室BIMコーディネーターの中川歩氏は、「まず管理する範囲と目的を明確に決めた」と説明する。提供される材木の生産林はもちろんのこと、材木それぞれを建物のどこに使うのかを把握しやすくしたい。そこでルールを決め、「管理番号」を割り振って登録した。
管理番号は、木造の建て方で昔から使われている番付け(ばんづけ)に似ている。部材の位置や向きが分かる座標を示すものとなるよう設定した。様々な変更に対応しやすくするため、あえて通し番号としなかった。
日建設計の中川氏によれば、管理番号は設計段階で割り振り、BIMのインフォメーションによるトレーサビリティー(追跡可能性)に配慮した。約4万本の部材全てに情報を付加。さらに施工やその後の運用管理に必要なデータベースを作成し、位置の変更や代替材への切り替えなどの手間がかからないようにした。材木加工者への依頼時や提供自治体への返却時にも管理番号が機能するようにしている。