全2530文字
PR

 東京五輪・パラリンピックのために建てられた「選手村ビレッジプラザ」は、全国の自治体が建設用の材木を提供し、さらに解体後に引き取って再利用するという森林資源活用プロジェクトだった。2021年9月の閉幕から1年半を経過した現在、協力自治体での「後利用」の試みが続く。こうした「木材活用リレー」を合理的に実現するために、設計や施工の現場では、今後の木造建築の在り方を変え得る取り組みが進んでいた。

選手村ビレッジプラザの内観(写真:吉田誠)
選手村ビレッジプラザの内観(写真:吉田誠)
[画像のクリックで拡大表示]

 ビレッジプラザは5棟から成り、各棟の部屋の用途別に3種類の構造形式を使い分けて建設した。仕切りのない見通しの良さを求めるエントランスなどのある部屋では独自のレシプロカル架構。記者会見などを開催する部屋では無柱となるトラスアーチ架構。事務所やコインランドリーなど小さな部屋が集まる場所では鋼製ブレースを使った格子梁架構を採用した。

 このうち特徴的だったのは、3本の柱がねじれて立つ組み柱と相持ち梁で耐震性を確保したレシプロカル架構の空間だ。

 仕切り壁やブレースを設けずに、大きな空間を構成したい。そこで、節点を集中させずに部材相互が支え合うレシプロカル構造(相持ち構造)の架構を、日建設計が新たに考案した。この架構の構造強度を検証し、かつ限られた材木の種類で建物を成立させるために、デジタルツールによる検討やBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用が欠かせなかった。

 3つの構造形式とも、主な構造部材の寸法の組み合わせは至ってシンプルだ。柱の断面は120mm角で長さは2930mm。梁の断面は120mm×240mmで、長さは4300mmと6000mmの2種類。床は製材の敷き並べによる場合は105mm角の正角材、CLTパネルの場合は厚さ90mm──と、たった5パターンの材木で主要な構造部材などを賄う。

 構造部材を最長6mとしたのは、木材活用リレーにできるだけ多くの自治体が応募できるようにするためだ。長さ6mの材木は一般流通材として希少な長尺材だ。6mの長さに製材できる曲がりや反りのない原木を一定量確保できない山も多い。こうした制約を踏まえて日建設計は設計を進めた。

レシプロカル架構の組み柱の上部。3本の柱をねじれるように配置して金物で固定し、「相持ち」の梁のユニットを接合している(写真:日経クロステック)
レシプロカル架構の組み柱の上部。3本の柱をねじれるように配置して金物で固定し、「相持ち」の梁のユニットを接合している(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]
レシプロカル架構の組み柱の下部。3本の柱を金物に固定している(写真:日経クロステック)
レシプロカル架構の組み柱の下部。3本の柱を金物に固定している(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]
レシプロカル架構梁伏図(出所:日建設計)
レシプロカル架構梁伏図(出所:日建設計)
[画像のクリックで拡大表示]