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 清水建設は2023年2月24日、埼玉県深谷市に立つ旧渋沢栄一邸「中の家(なかんち)」主屋で進める、構造補強と改修工事の建設現場を公開した。同年4月末の竣工を目指し、内装工事や瓦屋根のふき替え工事などを進めていた。

清水建設が改修工事を進める旧渋沢邸「中の家(なかんち)」主屋。左に写るのは「若き日の栄一」像(写真:日経クロステック)
清水建設が改修工事を進める旧渋沢邸「中の家(なかんち)」主屋。左に写るのは「若き日の栄一」像(写真:日経クロステック)
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 24年度から新1万円札の顔になる、渋沢栄一氏。その生誕地に立つ中の家主屋は、1895年に渋沢氏の妹夫妻が上棟した木造建物だ。埼玉県指定旧跡や深谷市指定史跡になっている。延べ面積は約540m2で高さが11mの地上2階建て。1985年から青淵塾渋沢国際学園(埼玉県深谷市)の学校施設に利用されていたが、2000年に深谷市が譲り受けた。

 市は当初、老朽化や耐震性の問題から外観のみを一般公開していたが、内部公開を行えるよう19年7月に構造補強と改修工事の公開型プロポーザルを実施。同年内に設計・施工者として清水建設を特定した。同社は20年1月から設計を始め、22年2月に着工した。

 建設工事費は当初、設計費を含めて約1億9000万円を予定していた。着工後に屋根のふき替え工事などが追加となり、約3億5000万円に増額した。

「中の家」の配置図。図のグレーの範囲が敷地で、中央に立つ主屋の改修工事を清水建設が進めている(出所:深谷市)
「中の家」の配置図。図のグレーの範囲が敷地で、中央に立つ主屋の改修工事を清水建設が進めている(出所:深谷市)
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 清水建設は中の家の意匠性を保持しつつ、木造の構造耐震指標(Iw値)で現行基準1.0以上の耐震性能を確保した。中の家は埼玉県の建築審査会の同意によって建築基準法の適用除外を受けているが、「基礎の補強」「耐力壁の集中配置」「小屋組みと床組みの補強」の3つを核に、建物の耐震安全性を向上させた。

 清水建設東京支店の森田裕樹工事長は、「100年以上の歴史がある建物なので、各所に相応のゆがみが出ている。そのゆがみを生かしながら、現代の技術できれいに仕上げて、見せる。そのクオリティーにこだわった」と語る。

 こだわりの1つが基礎だ。最大で約90mmの不同沈下が発生しており、建物のジャッキアップを行いながら、補強工事を行った。

大黒柱や耐力壁などの下に鉄筋コンクリートの基礎を新設した(出所:清水建設)
大黒柱や耐力壁などの下に鉄筋コンクリートの基礎を新設した(出所:清水建設)
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1階南東側のメインエントランス。約90mmの不同沈下が発生していた(写真:日経クロステック)
1階南東側のメインエントランス。約90mmの不同沈下が発生していた(写真:日経クロステック)
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工事中には、れんがを積層したかまどなど、新たな遺物も見つかった(写真:日経クロステック)
工事中には、れんがを積層したかまどなど、新たな遺物も見つかった(写真:日経クロステック)
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