2023年プリツカー建築賞の栄誉を手にしたのは、英国を代表する建築家のデイビッド・アラン・チッパーフィールド氏だ。同賞を主催する米ハイアット財団が米東部時間の3月7日午前10時に発表した。チッパーフィールド氏は1953年、英ロンドン生まれ。これまで王立英国建築家協会(RIBA)によるRIBAロイヤルゴールドメダル(2011年)など数々の建築賞を受賞。英国建築家のプリツカー受賞者は、07年の故リチャード・ロジャース氏以来となる。
チッパーフィールド氏はノーマン・フォスター氏やロジャースなどの下で働いた後、1985年に英ロンドンで独立。設計事務所デイビッド・チッパーフィールド・アーキテクツ(David Chipperfield Architects)は現在、英ロンドンの他、ドイツやイタリア、中国、スペインでもオフィスを展開している。設計活動は40年以上で、手掛けたプロジェクトは欧州や北米、アジアで100件を超える。市民会館、文化施設、学術施設、住宅、都市計画などジャンルも広範囲に及ぶ。意外にもキャリアは故三宅一生氏の店舗内装をデザインしたことから始まり、日本の影響も受けた。
受賞に際してチッパーフィールド氏は次のようなコメントを出した。「このような特別な栄誉をいただき、また建築家という職業に多くのインスピレーションを与えてくれた歴代の受賞者と並べてもらえることに、私はとても感激している。この賞を受けることは、建築家が建築の本質とその意義だけでなく、気候変動や社会的不平等といった本質的な課題に取り組むことを促し続けるものだと捉えている。私たち建築家はビジョンと勇気を持って責任を果たせるよう、そうした課題に挑み、また次の世代を鼓舞しなければならない」
チッパーフィールド氏の設計に対する姿勢についてプリツカー賞の審査委員会は、「目立たないが変革をもたらす市民の存在や、公共領域の定義を民間プロジェクトであっても建築にもたらすこと。それを彼は無駄な動線を避け、トレンドや流行に左右されないといった姿勢を持って厳格に行ってきた。そうした姿勢はいずれも、我々の現代社会に向けた最も適切なメッセージといえる」と評した。
さらに、次のようにもコメントしている。「さまざまな都市に立つチッパーフィールド氏の建物は、彼の作品だとすぐ分かるようなものではなく、それぞれの環境に合わせて設計されている。近隣との新しいつながりを生み出しながらそれぞれが存在感を示し、彼の建築言語は基本的な設計原理の一貫性と、地域文化に対して柔軟にバランスを取っている。欧州の古典主義、英国の複雑な自然、そして日本の繊細ささえも統合しており、それは文化の多様性の結実といえる」
講評では、代表的なプロジェクトとして「James-Simon-Galerie」(ドイツ・ベルリン、18年)や「The Neues Museum」(同、09年)、「Procuratie Vecchie」(イタリア・ヴェネチア、22年)、「the headquarters for Amorepacific」(韓国・ソウル、17年)などを挙げた。
またハイアット財団のトム・プリツカー会長は、「彼は傲慢にならず、一貫して流行を避け、歴史と人類に尽くしながら伝統と革新をつなぐことに向き合ってきた。彼の作品はエレガントで卓越したものだが、彼自身は、社会や環境福祉の視点から文明全体の生活の質を高めるかどうかでそれらの成果を測っている」とコメントした。
プリツカー賞は1979年に、ハイアット・ホテル・グループのオーナーである故ジェイ・アーサー・プリツカー氏とその妻シンディー氏が創設した。建築界のノーベル賞とも称され、チッパーフィールド氏は52人目の受賞者となる。日本人では、故丹下健三氏、槇文彦氏、安藤忠雄氏、妹島和世氏、西沢立衛氏、伊東豊雄氏、坂茂氏、故磯崎新氏がこれまでに受賞してきた。
2023年の審査委員会は、チリの建築家で16年の同賞受賞者でもあるアレハンドロ・アラベナ氏が委員長を務めた。その他、10年に受賞した妹島和世氏、12年に受賞した中国の建築家ワン・シュウ氏、米連邦最高裁判所の元判事であるスティーブン・ブライヤー氏などが委員に名を連ねる。授賞式は、23年5月にギリシャ・アテネで開催される予定だ。