宿泊客の男性がホテルの22階から転落死したのは、バルコニーが通常有すべき安全性を欠いていたからだとして、遺族がアパホテル(東京・港)に慰謝料など約1億3162万円の損害賠償を請求した裁判で、一審の東京地方裁判所は2023年2月27日、約1780万円を支払うようアパホテルに命じた。バルコニーの柵の高さが建築基準法施行令126条1項に違反していると判断した。同社は控訴する方針だ。
判決文によると、事故が発生したのは大阪市西区にある「アパホテル大阪肥後橋駅前」。19年7月31日から宿泊していた当時46歳の男性が、翌8月1日の午前6時22分ごろ、22階の客室バルコニーから誤って歩道に転落し、出血性ショックなどで即死した。
客室のバルコニーは、大阪市の「高層建築物等に係る防災指導基準」に基づき、一時避難場所(避難者が一時的に安全に待機できる場所)として設けられたもの。通路幅は65cmで、高さ72cmの金属柵が設置されていた。柵のほかには転落防止対策は講じられていなかった。
客室からバルコニーに出るには、客室床から高さ73cmの位置にある腰高窓を通る必要がある。窓の下枠には金属製の開閉制限器具が取り付けられていた。同器具の安全ピンを抜くと、窓を内側に90度程度まで開けられる仕組みだ。
通常、ピンは透明なプラスチックカバーで保護されており、抜くにはカバーを割る必要がある。窓枠には「非常時にはカバーを割り窓を全開にしてバルコニーへ避難することが出来ます」と記載されていた。
裁判の争点は、バルコニーの転落防止措置が十分だったかどうかだ。
原告側は、柵の高さが1.1m未満であるため、建基法施行令126条1項に違反していると指摘。男性がチェックインした際には開閉制限器具の安全ピンやカバーが外れた状態だったため、客室からバルコニーに容易に立ち入ることができるようになっていたうえ、注意喚起もなかったとし、設置または保存の瑕疵(かし、工作物責任)があったと主張した。