全2279文字
PR

 大成建設が札幌市中央区で施工している超高層ビル「(仮称)札幌北1西5計画」で2023年3月16日に明らかになった鉄骨の精度不良問題で、徐々に詳細が分かってきた。計70カ所以上の柱の傾きが、日本建築学会の建築工事標準仕様書(JASS6)に基づき契約で定めた限界許容差を超えており、ずれは最大21mmだった。同社の現場事務所では、鉄骨の建て入れ精度の計測値などを改ざんし、実際とは異なる数値を工事監理者や発注者に報告していた。

鉄骨建て方とスラブ厚の精度不良があった高さ約116mの超高層ビル「(仮称)札幌北1西5計画」の建設現場。2023年3月18日撮影。発注者はNTT都市開発。設計・監理者は久米設計、施工者は大成建設だ。施工不良の発覚に伴い、15階まで立ち上がった地上部分全体と地下の一部を撤去したうえで再構築する(写真:読者提供)
鉄骨建て方とスラブ厚の精度不良があった高さ約116mの超高層ビル「(仮称)札幌北1西5計画」の建設現場。2023年3月18日撮影。発注者はNTT都市開発。設計・監理者は久米設計、施工者は大成建設だ。施工不良の発覚に伴い、15階まで立ち上がった地上部分全体と地下の一部を撤去したうえで再構築する(写真:読者提供)
[画像のクリックで拡大表示]

 大成建設は問題発覚後の23年3月、不具合についてまとめた報告書を建築主のNTT都市開発(東京・千代田)に提出した。「(仮称)札幌北1西5計画」では、(1)柱全長に対し基準値よりも数ミリ傾きが大きいものがある、(2)階高が基準から数ミリ外れている階がある、(3)梁(はり)の水平度が基準から外れている箇所がある――といった不具合が生じていた。

 日本経済団体連合会(経団連)の副会長まで輩出した日本を代表するスーパーゼネコンの一角が、なぜこのようにお粗末な品質トラブルを起こしたのか。

 「(仮称)札幌北1西5計画」は、地下1階・地上26階建ての北棟と、地下2階・地上7階建ての南棟から成る延べ面積約6万m2の複合ビル。北棟の高さは約116mで、3~16階には賃貸オフィスが、17~26階には「ハイアット セントリック 札幌ホテル」が入居予定だ。

 構造種別は鉄骨(S)造と鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造で、制振構造を採用している。発注者はNTT都市開発、設計・工事監理者は久米設計(東京・江東)。施工不良などの発覚に伴い、15階まで立ち上がった地上部分全体と地下の一部を撤去したうえで再構築するため、竣工は当初予定の24年2月から28カ月遅れの26年6月末ごろになる見通しだ。

「(仮称)札幌北1西5計画」の構成(出所:NTT都市開発)
「(仮称)札幌北1西5計画」の構成(出所:NTT都市開発)
[画像のクリックで拡大表示]

 NTT都市開発の担当者が23年1月5日に現場を巡回したことが、発覚のきっかけとなった。担当者は、鉄骨柱の接合部のボルト穴がずれているのを発見した。現場では、用意していた仮ボルトが穴を通らなかったため、直径の小さいボルトで仮留めしていたのだ。この鉄骨の穴のずれに違和感を覚えたNTT都市開発の担当者が、大成建設の現場事務所に指摘。同社札幌支店の品質管理部門が乗り出し、鉄骨の全数調査を実施することになった。

 全数調査の実施に先立って大成建設の現場事務所は23年1月11日、改ざんされた計測値をまとめた資料を工事監理者の久米設計に提出し、「問題ない」と伝えていた。しかし、大成建設札幌支店が鉄骨の全数調査を実施したことで、実測値と資料の計測値に食い違いがあることが明らかになった。

 大成建設によると、鉄骨の使用部分は北棟の地下部と地上部、南棟の地上部で計754カ所。うち77カ所で、契約で定めた柱の傾きの限界許容差を平均4mm、最大で21mm超過していた。スラブ厚の不足も大量に生じている。570カ所のうち245カ所が平均で6mm、最大で14mm、基準より薄い状態だった。

 NTT都市開発広報室の担当者は日経クロステックの取材に対して、「契約で求めたのはJASS6の基準を満たすことだ。特別に高い品質レベルではない。まさかスーパーゼネコンでこのようなことが起こるとは」と困惑する。