全3121文字
PR

 街づくりや都市整備に取り組む企業約30社が参加する国際文化都市整備機構(略称FIACS、東京・港)は、エリアの魅力を評価するための「エリアクオリア指標」を開発。街づくりの「カルテ」(診療記録)を作成するサービスを2023年度から本格化させる。

 参加企業が知見や技術を持ち寄り、ソフト面を含め、 総合的な評価が可能となる仕組みをつくった。22年秋に試験提供を開始し、既に東京の大丸有(大手町・丸の内・有楽町)、渋谷、西新宿の評価結果を公表。さらに複数エリアを対象に作業を進めている。

 下図のように、独自に計測する「行動データ」と「情感データ」、および既存の統計資料や施設資料から得る「リソースデータ」を定量化して評価する。それぞれのスコアを算出し、当該エリアを9段階で格付けする。

2つのビッグデータと1つのリソースデータを用い、街の魅力の可視化を図る(出所:FIACS)
2つのビッグデータと1つのリソースデータを用い、街の魅力の可視化を図る(出所:FIACS)
[画像のクリックで拡大表示]

 街や都市の評価指標には、よく知られるものが幾つかある。しかし、一定のエリアを開発・運営する民間事業者がビジネスの手掛かりにできるものではなかった。

 例えば、森記念財団都市戦略研究所が毎年発表する「世界の都市総合力ランキング」や「日本の都市特性評価」がある。これらは東京、米ニューヨークといった大都市や、一定規模の自治体を評価対象とする。政策立案などのために参照されているが、個々の民間事業者が関わる領域とは異なる。

 他に、スマートシティ・インスティテュートが手掛け、政府のデジタル田園都市国家構想の公式指標となる「Liveable Well-Being City 指標」(日本版)がある。これは各種のインフラやハードの比重が高いため、民間事業者によるソフト面の努力や工夫が反映されにくいとFIACSはみている。

 評価指標の在り方を議論するなかで、魅力のある街の例として挙がった1つは、東京の神田神保町(千代田区)だった。

 書店、古書店が集積するが、大規模商業施設や大企業のオフィスがある街ではない。しかし、独自の個性と文化を持ち、人が繰り返し訪れている。従来の指標では、こうした街の定量的な評価をカバーできない。

 ハード系の事業者のニーズに偏らず、生きた街を経年的に観測し、評価できるような指標が必要ではないか。FIACSはそうした思いを持ち、事業者や内閣府に対するヒアリングなども実施。様々な領域の関係者が連携するための実用的な指標の研究を続け、現在に至る。

「エリアクオリア指標」試験提供の段階で実施した東京・西新宿エリアの評価結果。総合指数は1万点満点で7365点、格付け(後述)は9段階評価のAランクとなった(出所:FIACS)
「エリアクオリア指標」試験提供の段階で実施した東京・西新宿エリアの評価結果。総合指数は1万点満点で7365点、格付け(後述)は9段階評価のAランクとなった(出所:FIACS)
[画像のクリックで拡大表示]
「エリアクオリア指標」試験提供の段階で実施した東京・西新宿エリアの評価結果。共感人口(緑表示)、文化系指標(赤表示)、文明系指標(青表示)のそれぞれのスコア平均をビジュアライズしている(出所:FIACS)
「エリアクオリア指標」試験提供の段階で実施した東京・西新宿エリアの評価結果。共感人口(緑表示)、文化系指標(赤表示)、文明系指標(青表示)のそれぞれのスコア平均をビジュアライズしている(出所:FIACS)
[画像のクリックで拡大表示]

 FIACS常務理事の松岡一久氏(エナジーラボ代表取締役)はこう語る。

 「ウオーカブルなエリア、つまり歩いて楽しめる規模のエリアの定点観測や経年評価を主眼とする。エリアマネジメント団体が、今回のサービスの主なターゲットとなる。会員のデベロッパーからは面的な複合都市開発に適用できる指標を求める声もあり、それも考慮した。地方の中心市街地活性化を含め、広範な街づくりに対応できるものを目指した」

 各所で大規模都市開発が進み、エリアマネジメントに携わる団体が増えてきた。何のための活動かを問われたときに、成果を定量化しにくい点が課題となっている。「集客イベントを試みるときに高揚感はあっても、それだけではやがて疲弊し、予算が絞られる事態になる。活動を点検するツールとして使ってほしい」(松岡氏)

 前出の行動データの計測にはFIACS会員企業のKDDI、Twitter(ツイッター)の投稿を用いる情感データの解析には同・角川アスキー総研(東京・文京)が協力。これらのデータを用いる新たなサービスには、以下のような特徴がある。