神宮外苑地区第一種市街地再開発事業を巡り、建築・造園・都市計画の専門家7人が2023年3月8日、東京都知事、都議会議長、都の環境影響評価審議会会長の3人に対して事業の施行認可撤回と環境影響評価の継続審議を求める要請書を提出した。要望書は9項目から成り、既存の緑地空間と明治神宮野球場、秩父宮ラグビー場の保全なども盛り込んだ。
呼び掛け人は、藤本昌也・日本建築士会連合会名誉会長、岩見良太郎・埼玉大学名誉教授、原科幸彦・千葉商科大学学長、石川幹子・東京大学名誉教授、糸長浩司・元日本大学教授(代表)、大方潤一郎・東京大学名誉教授、若山徹・新建築家技術者集団会員の7人。要望書への賛同者は23年3月6日時点で584人だ。
賛同者には、大野秀敏・東京大学名誉教授、佐藤滋・早稲田大学名誉教授、中村勉・ものつくり大学名誉教授、五十嵐敬喜・法政大学名誉教授、宮本憲一・大阪市立大学名誉教授といった、建築や都市計画、造園などの専門家が多数、名を連ねる。
呼び掛け人の代表を務め、日本建築学会地球環境委員会脱炭素社会推進合同ワーキンググループ(WG)で神宮外苑再開発問題の公開研究会を22年12月に実施した糸長代表は、23年3月8日に東京都庁で実施した記者会見で次のように訴えた。「神宮外苑の再開発事業は、建築・造園・都市計画・環境影響評価のそれぞれの面で、重大な問題を抱えている。専門家として、しっかり意見を提示すべきだと考えた。改めてこの再開発事業の一連の手続きを検証し、情報を市民に開示して、神宮外苑地区の今後の維持と整備の在り方を広く論議する場を都に求める」
専門家らが会見で訴えた問題の1つが、再開発に伴う二酸化炭素(CO2)排出量の増加だ。建設時のCO2排出量は、概算で1m2当たり1トンになる。再開発事業の延べ面積は約56万5000m2なので、工期を10年とすると、建設時のCO2排出量は年間5.65万トンになり、これを吸収するには、都の森林面積の8%に相当する6400ヘクタールが必要になるという。運営時のCO2排出量は、現状よりも延べ面積が大幅に広くなる分、増えることになる。
事業者が都に提出した環境影響評価書には、建設時のCO2排出量に関する記載はない。運営時のCO2排出量は、現状の建築物とではなく、再開発事業で新築する建築物で省エネ対策を施さない場合と比較して、2割削減するとしている。
「事業者が進める再開発事業は既存樹木を大量に伐採するため、その分もCO2吸収量が減ってしまう。2重の意味でCO2排出量増加につながる」と糸長代表は話す。