MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)への期待が高まる中、米シリコンバレーでは関連スタートアップが早くも厳しい現実に直面している。話題を呼んだ電動スクーターは危険性が指摘され、大手自動車メーカーが買収したバスサービスのスタートアップは2019年1月末で事業停止に追い込まれた。
ヘルメット無しがもたらす危険
米国では2017年秋ごろから米バード(Bird)や米ライム(Lime)などのスタートアップが、電動スクーターのシェアリングサービスをロサンゼルス市近郊やサンフランシスコ市などで始めた。しかし、サービス開始から1年半が経過し、電動スクーターによる事故の深刻な実態が明らかとなった。
米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のタラック・トリヴェディ(Tarak Trivedi)氏らの研究チームが2019年1月25日(米国時間)に発表した調査によれば、2017年9月1日から2018年8月31日までの1年間に電動スクーターの事故でUCLA付属病院に搬送された患者は249人。このうち、3分の1が重傷を負い、頭部のけがが4割を占めた。
子供がおもちゃとして乗るキックスクーターにモーターを載せた電動スクーターは最高時速が15マイル(約24キロメートル)に達する。しかも幅が狭い板に立って乗るのでバランスを崩しやすい。それにもかかわらず多くの利用者がヘルメットを着けないため、転倒して頭部に深刻なけがを負ってしまうことが多いのだ。
電動スクーターが危険なことは、走っている姿を目撃したり、実際に乗ったりすればすぐに分かることだ。2018年9月には米テキサス州ダラスで電動スクーターの利用者が死亡する事故も起こっていた。米国で最も初期からサービスが始まったロサンゼルスにあるUCLAが危険性を改めて数字に示したことで、電動スクーターに対する風当たりはますます強くなりそうだ。
乗り捨て自由の電動スクーターサービスは、鉄道やバスなどの公共交通機関がカバーできない「ファースト&ラストマイル」を補完する存在として期待が高まっていた。ライムやバードは2018年夏までに数億ドル規模の資金調達に成功し、創業からわずか1年で推定企業価値が10億ドルを超える「ユニコーン」入りを果たしていた。
しかし、2018年11月にはサービスの収益性を疑問視する声が早くも上がっていた。同事業を展開する米スクート(Scoot)のマイケル・キーティング(Michael Keating)CEO(最高経営責任者)は、サンフランシスコ市から認可を受けてサービスを始めたところ、わずか2週間で200台以上のスクーターが盗難に遭ったり、修理できないほど損傷したりしたことをブログで明かした。
この数字が示す通り、電動スクーターの寿命は驚くほど短い。資金が枯渇してサービス停止を余儀なくされる事業者がいつ出てきてもおかしくない。2019年は正念場となりそうだ。