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 最近の米アップル(Apple)は、まるでプライバシー守護者にでもなったかのようだ。2019年1月には、米フェイスブック(Facebook)と米グーグル(Google)が「iPhone」上で不正にユーザー情報を収集したとして制裁を加えた。この背景には、自らもデータを使ったビジネスを始めようとしている事情がありそうだ。

 2019年1月は、アップルのプライバシー守護者としての活動がやたらと目立った1カ月だった。まずは1月上旬に米ラスベガスで開催された「CES」。アップルはCES会場近くのビルに「What happens on your iPhone, stays on your iPhone.(あなたのiPhoneで起こったことは、あなたのiPhoneの中にだけ残る)」とのメッセージを掲げた巨大広告を張り出し、音声アシスタントなどを通じてユーザーからさまざまなデータを吸い上げようとしているグーグルや米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)をけん制した。

アップルがCES会場近くに掲示した広告
アップルがCES会場近くに掲示した広告
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CEO自ら寄稿「データブローカーに規制を」

 1月16日に発行された米誌「Time Magazine」には、アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)が自ら寄稿。オンライン上での個人の行動履歴などを勝手に売買する「データブローカー」が暗躍していることを問題視し、そうした活動を規制する法律を米政府が制定すべきだと訴えた。

アップルのティム・クックCEO
アップルのティム・クックCEO
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 具体的には、米連邦取引委員会(FTC)にデータブローカーを規制する部署を設置。データブローカーはFTCへの登録制とし、消費者が自身のデータをいつでも削除したり、どのように売買されたかを追跡したりできるようにすべきだとまで主張した。

 そしてアップルは1月末、ユーザーデータを根こそぎ収集するアプリを、規約に反して配布していたとして、フェイスブックとグーグルに制裁を加える措置を講じた。この問題は米メディア「TechCrunch」が1月29日(米国時間)に最初に報じた。

フェイスブックとグーグル、アップルの仕組みを悪用

 アップルが問題視したのは、フェイスブックがユーザー調査に使用していた「Facebook Research」というアプリだ。フェイスブックが月額20ドルを支払った13歳から35歳までの消費者モニターにインストールさせていたもので、iPhone上での行動を全てモニタリングしたり、テキストメッセージなどを含むあらゆるデータを収集したりすることが可能だった。

 このようなアプリは通常、アップルの審査を通らないため、「App Store」で配布できない。そこでフェイスブックは、アップルが企業ユーザー向けに用意する「Apple Developer Enterprise Program」の仕組みを使ってアプリをインストールさせていた。

 Apple Developer Enterprise Programは、企業ユーザーの社内アプリを、App Storeを介さずにiOS端末にインストールさせる仕組みだ。この仕組みを使って社外のユーザーにアプリをインストールさせるのは規約違反となる。アップルはフェイスブックがApple Developer Enterprise Programで使用するデジタル証明書を無効にするという制裁を加え、Researchアプリを使用できなくした。

 米メディア「Verge」などの報道によれば、フェイスブックはApple Developer Enterprise Programを使ってさまざまな社内アプリを運用していたほか、「Facebook」や「Instagram」の公式アプリのベータテストなどにも使っていた。このため、デジタル証明書を無効にされたフェイスブック社内は大混乱に陥ったという。