量子コンピューターの実用化には、数千億円から数兆円の開発費がかかるとされる。何がそんなに難しいのか。米グーグル(Google)が2019年2月21日(米国時間)、米サンフランシスコで開催された半導体の国際学会「ISSCC 2019」でその一端を明らかにしたので紹介しよう。
グーグルのジョセフ・C・バルディン(Joseph C. Bardin)氏がISSCC 2019のセッション「A 28nm Bulk-CMOS 4-to-8GHz <2mW Cryogenic Pulse Modulator for Scalable Quantum Computing」で発表したのは、量子コンピューターの心臓部である「量子プロセッサー」を外部から制御する「量子ビット・コントロール・システム」を1個のCMOSチップで実現する技術だ。
希釈冷凍機の中で動く量子コンピューター
グーグルが開発を進める「量子ゲート方式」の量子コンピューターは、「0」と「1」の両方が同時に存在する量子ビットを搭載した量子プロセッサーの実現に超電導回路を採用する。超電導回路は絶対零度に限りなく近い「10ミリケルビン(mK)」という超低温で稼働させる必要があるため、量子プロセッサーはヘリウムで冷却した「希釈冷凍機」に格納して運用している。
量子ビット・コントロール・システムは、量子プロセッサーに4G~8GHzのパルスを送ることで量子ビットの動作を制御する装置だ。現状ではサーバーラック1本分ほどのサイズがあるため、希釈冷凍機の外で稼働している。
72量子ビットで168本の同軸ケーブルが必要
グーグルが開発した最新の量子プロセッサーで72量子ビットを実装する「Bristlecone」の場合、希釈冷凍機の外で稼働する量子ビット・コントロール・システムと、希釈冷凍機の中にある量子プロセッサーを168本もの同軸ケーブルで結んでいる。量子ビット1ビット当たり2本の同軸ケーブルが必要なほか、それ以外の用途にも同軸ケーブルを利用するためだ。
グーグルが目指している「万能量子コンピューター」、すなわち「量子ビットの誤り訂正が可能であり現在のコンピューターでは到達できない性能を有することが理論的に証明されている量子コンピューター」を実現するには、量子ビットの数を100万個以上に増やさなければならない。
しかし現在の量子ビット・コントロール・システムで100万量子ビットを目指すとなると、量子プロセッサーとの間を200万本以上の同軸ケーブルで接続することになる。実現は物理的に不可能だ。